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だって好きだから!


「宍戸さん!夏です海に行きましょうっ」

「はぁ?」

唐突すぎる提案に心底面倒臭そうな表情で返すも、宍戸のつれない態度など毎度の事。

すっかり慣れてしまっている鳳はまったく気にせず、自分より背の低い宍戸へ少し身を屈めて彼の両手をギュッと握った。

「ね?行きましょうよ、部活オフの日にでも。きっと楽しいですよっ」

「却下。んでわざわざ他人がごった返してるとこ行かなきゃなんねーんだ。激ダサ、お前一人で行け」

「そんなぁ!俺一人で行ってもつまらないじゃないですか…!宍戸さんと行くからこそなんですよ。あ、だけど人混みが嫌ならうちのプライベートビーチでいいですよね!」

「おいコラ勝手に完結すんなバカ!俺は行かねえ!ちょ、誰か長太郎はがせっ」

「「「頑張れ」」」

「頑張ってんだろ!」

至近距離でキラキラと目を輝かせる後輩を必死で拒否する宍戸だが、同じ部室という空間内にいる筈の他レギュラー達はSOSすら見てみぬフリ。

この二人に関してはもう皆慣れきってしまっているため、助けるどころか見ようともしていない。

応援要請も軽くスルーされ、なんとか自力で逃れようと自分の両手を握る鳳の手を掴むも、強すぎて離れない。

「おい離せ長太郎、近ぇんだよバカ!行かねえって言ってんだから諦めろ、日吉でも誘えばいいだろが!」

「俺は宍戸さんと行きたいんですよっ!ね、行きましょ。…あ!もしかして水着が無いんですか?それは大変だ…!任せてください!俺が宍戸さんにピッタリなやつを用意しますから安心していいですよっ」

「待て待て待て誰が水着無いなんて言った!?水着がどうのじゃねえよ!俺は行かねえって言ってんだろ、しつけぇなっ」

「…そうですか…」

「へ」

急にしょぼんと眉を下げた鳳に戸惑ったのは拒否をしていた宍戸の方で。

「すいません、俺ひとりで盛り上がっちゃって…暑いから避暑をって考えたんですけど…迷惑ですよね…」

下手したら泣き出しそうなくらいしょげてしまった鳳の頭に垂れた耳が見えてしまって、凝視しながら幻覚だと自身に言い聞かす宍戸だけれど。

垂れた耳と、垂れた尻尾、泣きそうな表情。

どうにも動物虐待をしているような、なんとも言えない気持ちになってしまう。

(俺か?俺が悪ぃのか!?)

ガラにもなく狼狽えながら鳳をあやすも、表情にも耳やらにも変化は無い。

他レギュラーからも「後輩をいじめるな」だとか「海くらいいいじゃないか」だとか非難が飛ぶが、その表情はニヤついて明らかに面白がっていた。

「っく、すいませ…ッ」

「ちょ、お、おい長太郎!?断られたくらいで泣かないよな?つか泣くな頼むからっ」

「だって宍戸さんが…っ」

「やっぱ俺が悪ぃのか!?ちょ、マジ泣くなよダセェな!」

遂にポロッと零れてしまった涙が、長身の鳳故か宍戸の頬にパタリと落ちた。

いくら鳳でもさすがに泣きはしないだろうと考えていたのに、ポロポロ零れては自分の顔に落ちる涙。

「おいおい…っお前中二だろ!?こんな事で泣くな!」

「けど楽しみに、楽しみにして…っ、くっ」

「だああ!わかったわかった!行きゃいんだろ!?行ってやるから泣き止めバカ!」

「本当ですか!?」

「は」

パアッと満面の笑みに早変わりした鳳に宍戸の口が開く。

そんな事には構わず掴んだままの手をガシリと握り直して、再度確認をする鳳にポカンとしながらも頷いて。

「やったぁ!じゃあ次のオフに行きましょうねっ!あ、今から水着買いに行きましょう!何色かなぁ、宍戸さんならやっぱり水色?あ!ついでに俺も新調しようかなぁっ」

「って、おいコラちょっと待て。お前さっきわんわん泣いてたくせに何だその変わり様は」

「えへっ」

へらりと笑いながらポケットから出したのは、薄々感づいてはいたけれどやっぱりな代物。

「目薬かよ!お前マジふざけんなっ!撤回だ撤回!やっぱ行かねえ!」

「宍戸さんは嘘なんてつきませんよね?そんな事しませんよね?」

「う…っ」

「良かったぁ。さすが宍戸さん!男らしく潔いですねっ!」

「テメェこのやろ…っ」

「さ!そうと決まれば早く買い物行きましょう!お先に失礼しますっ」

「ちょ、俺は行くなんざ…!」

「早く早く!シーズンですからいいの売り切れちゃいますよっ」

二人分の荷物を持ちながらぐいぐいと腕を引く鳳に、宍戸の青筋が二、三本切れかけたけれど、何故か振り解く事が出来なくて。

やはり助けてはくれない他レギュラー達に盛大な舌打ちをして、引かれるまま足を動かした。

前を行く長身の後輩から噴出している上機嫌オーラと、掴まれたままの右腕。

(…しょうがねぇな)

騙された苛々より、
いつもながら単純な後輩への慣れと諦めが勝ってしまって。

一度ため息を吐いて、苦笑しながらされるがまま歩き出す。

今回だけだと自分に言い聞かせるも、結局いつも鳳にしてやられる事には気付けない宍戸亮14の夏だった。


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