残骸(切?)


※姫=東軍所属,女武将
 こっちは姫視点





草を踏む音がして振り返った
木の影から姿を現したのは
私が待っていた姫だ

「こんなところに呼びつけるなんて、バレたら刑部が怒るんじゃあないかい?」

私が数日前に
姫へ送った文を左手に持ち、
それをヒラヒラと揺らしながら、
一歩、また一歩と私に近付いてくる


「刑部の許可は得ている」

目の前までやって来た姫に
そう返してやれば、
姫は少しだけ笑った

「貴様こそ、本当に一人で来たのだな…罠だとは思わなかったのか」

「アンタは約束を違えるなんてこと、しないだろうよ」


姫は再び持っている文を
ヒラヒラと揺らして見せた
“一人で来い、私も一人で行く”
文の最後に書いた通り
この場にいるのは姫と私のみだ


「それで、話ってのはなんだい?」

回りくどいのは嫌いだから
簡潔にお願いできるかね
そう続けた姫に
ならば簡潔に言おう、と返し
言葉を続けた

「姫、家康に与するのをやめ、私の元へ来い」


風が吹き、木の葉や足元の草が
ざわざわと音を立てた

姫はその美しく澄んだ色の目を伏せ、
風が止むと静かに話し出した


「アタシがアンタについて行ったら、あんたは満足するのかい…?」

「ああ」

私が短く返事をすると
姫は伏せていた目を
私へ真っ直ぐ向けて、私に問うた


「それがアンタの憎む裏切りだとしても」

近くで鳥が飛び立つ音がした

「それでもアンタはアタシについて来いと言うのかい?」

「……」

私は何も言えなかった


暫しの沈黙の後
姫は口を開いた

「アタシはアンタが刀を向けるべき東軍の人間だ」

そう言って
左手に持っていた文を
千千に引き裂き、地に撒いた

姫の手から離れた文の欠片は
土と草の上に白を咲かせた
私はただそれを見ていた


「次にアンタと会うときの地面には、白じゃなく赤が咲いているだろうよ」

姫は私に背を向け
元来た道へと歩き出した

「待て、姫…っ!」

去り行く背に声をかけても
振り返ることは、なかった


地に咲く白に陽光が当たり
白が強調されていた
それが、やけに憎らしかった


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