勿忘草

※市丸ギン視点




だだっ広い暗い草原の中
姫ちゃんの霊圧を辿って、
走って走ってひたすら走って…

やっと見つけた

草原でうずくまっている姫ちゃんを


「姫ちゃん…迎えに来たで…僕と一緒に行こう?」


話しかければ顔を上げこちらを向いてくれる
あぁ…やっと見つけた

僕の大切な─

『誰?』

─…え?

「何言うてるん?冗談言うてる場合とちゃうんやで?早ぅいこ『触らないでッ!!』

明らかに姫ちゃんの様子がおかしい

まるで僕のことなんか─

「姫、ちゃん?どない‥したん…?」

─知らへんみたいに


『誰?あなたはだれ?アナタハダレ?ダレナノ?アナタハアナタハアナタハアナタハダアナタハダレアナタハダレナノアナタハアナタハアナタハ─ダレナノ?』


壊れたラジオみたいに
繰り返される拒絶という絶望の言葉

「─っ姫ちゃ…ッ!?」


─ガバッ

叫び声と共に勢い良く布団から跳ね起きた僕

「………あぁ、なんや‥…夢、か」
僕は今まで夢を見ていたということを理解するのに少しだけ時間が掛かった

嫌な汗で全身がジットリとしていて重たい


夢に見たのは尸魂界に置いてきた一人の部下

大切な姫ちゃん


尸魂界を出てきてからどのくらい経ったんやろか


─迎えに行くで


そう告げたっきり逢っとらへん
いや、逢えへんのは当たり前か…


ホンマにあの日からどのくらい経ったんやろか

姫ちゃんはどないしとるやろか…
そればっかり考えとる


もう 僕のことなんか忘れてしもたんかな…?


─忘れてしまった


その言葉に心臓がズキンとした

僕は布団を抱き締めて痛みに耐えた


姫ちゃんだけには忘れられとうない
姫ちゃんだけには…


─考えとるんは、思っとるんは君のこと


例え君に忘れられてしもても
僕は忘れへん、忘れられへん



大好きやから


部屋の隅に飾った花は
“勿忘草”









(あぁ、キミはボクを覚えてくれていますか?)

勿忘草/私を忘れないで

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