追いかけ追い抜き振り向いて、
少し戻って抱き締めて〜前編〜
(切→甘/血)



※姫=歳上部下






いつの日か少年は思った
自分がもっと大きければ、強ければ、愛する彼女を抱きしめ護れるのに─と



―それから幾ばくかの年月が流れ
少年は青年になった


「なあなあ姫、今から出掛けへん?ボク、暇なんよ」

口元に笑みを湛えたまま青年─市丸ギンは話し掛けた

愛する彼女に

『お言葉ですが市丸隊長、私は只今勤務中です。また、市丸隊長も勤務中です。』

市丸が話し掛けた愛する彼女とは姫だ

姫はまだ幼かった頃の市丸の補佐官を勤めていた

そんな姫のことが市丸は昔から好きだった
自分の補佐官であった彼女に幼いながらも恋心を抱いた

自分が昔から片思いをしている姫を外出、もといサボりに誘ったのだ

昔は勤務中であっても息抜きにと隊舎裏やら甘味処やらへ姫を引っ張って行ったりもした
─要はサボりたかっただけなのだが

しかし当然ながら昔と今とでは年齢も立場も違う市丸
簡単に外出、もといサボれるはずがない

「かったいなぁ姫は…えぇやんちょっとくらい」

『よくありません。』

もう一度ぴしゃりと跳ねのける姫
そしてもっともらしい理由、
事実を述べる

『…それに私はこれから現世へ行かなくてはならないので…』

「毎回そればっかしやん」

市丸の言う通り、姫は毎回何らかしら理由をつけては彼の誘いを断るのだ

『しかし…任務ですので…』

毎回断っている姫だが、本当ならば誘いを受けたかった

自分が補佐をしていた幼かった彼
そんな彼から昔と変わらず外出、もといサボりに誘われ
是非と返事を返したかった

しかし、もう立場が違うのだ
彼はどんどん上へと登り詰めていき今となっては雲の上だ

姫とはまるで立場が違うのだ


「なんや…しゃあないな…」

そのまま流れるかと思われた誘い

「それやったら帰ってきたら行こな?」

しかし市丸は帰ってきたらと新たな提案をした

姫は、今までは再度提案などしてこなかったのに、と嬉しさ半分驚き半分だった

『…はい では行って参ります』
姫は複雑そうに返事をし別れを告げた

「気いつけてな〜」
市丸も彼女を送り出した




へ続く


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