◎ 拝啓、名も知らぬ友達
冷たい海水が足元を凍らせるように濡らして行く
まるで「早くこっちにおいで」と嘆く様な感覚に罪悪感を覚える
「なに、してるの」
怯えた声がナマエの鼓膜を揺らし咄嗟に声のした方へ向くと綺麗な青が立っていた
視線だけをそちらへ向けると綺麗な青はその下に隠した黄金の瞳を怯える様に逸らした
「こ、この海岸は生きている者が近寄っていい場所じゃない...悪い事は言わないから離れて...」
「貴方この子達と仲が良いの?」
「認識は...してるんだね。...仲が良いとかそんな簡単な言葉じゃ片付けられない。僕はここの仮、だけど...管理人だ」
「そう...それは迷惑をかけたわ。この子達によろしく言っておいて」
それじゃ、と踵を返して綺麗な青の横を通り過ぎる
お互いに意味深な会話をしたと今でも思う
ただこの時は必死だったのだ
私、ナマエは普通の人とは違いこの世の者では無い者が幼い頃から見えた
その殆どは害もなく、生前悔いを残した溢れ物か人達が残した思念から出来上がったモノ
どちらにせよこの世の者では無いもの達。
だがそんな些細な事はナマエにとってどうでも良かった
両親を無くしひとりぼっちだったナマエに構ってくれたのはこの世ならざる者だ
毎日毎日「今日はご飯食べたか?」「また今日も元気ないじゃない。また何か言われたの?」なんて甲斐甲斐しく世話を焼いてくれた
ナマエは生きている人間なんかよりもこの亡霊達に心を開いていた
そしてそれが相まって生者達に気味悪いと一線引かれているがナマエは差し的にしていなかった
そして綺麗な青を纏った彼はそんな私なんかに構ってくれた
次の日もその次の日も惹かれる様に海岸へ向かうと彼は居た
管理者に迷惑を掛けているのだ、と分かっては居るもののナマエを呼ぶ声が深い海の果から聞こえそれに抗う術を知らない
いつもはナマエが訪れるより前から綺麗な彼は浜辺に立っていたが今日は居なかった
邪魔者が居なくなったと喜ぶように海へ誘う声がより一層響く
「こっちへ来て」「寂しいんだ」「寒い、温めて」何重にも重なる声が海の果から聞こえる
あぁ、可哀想に。私を呼ぶ悲しい声はいつかの幼き頃の私だ
1歩、また1歩足を進め冷たい海の波が腰より上を侵略する
_今行く。悲しまないで。いつか私が助けられた時のように私が貴方の側に居てあげるから
冷たい海の底の貝殻が素足を傷つけるが気にしない
夢中になって海へ進むナマエの腕を痛いぐらいの力で引き止め水飛沫が飛ぶ
驚いてナマエがそちらへ目をやると綺麗な青が火花を散らしながら涙を貯めた目でナマエを引き止めていた
「...そっちに行かないで」
「懐かしい夢を見たわ」
「それは拙者の黒歴史では...」
「フフっ、イデアは相変わらずね。可愛いわ」
「拙者は男ですぞ!?かっ、か、可愛いとか言われても嬉しくないですぞ!!」
「だってイデアったらあの頃みたいに泣きそうな顔してるんだもの」
「あの時と今を一緒にしないでくれます!?ぜんっっぜん違いますから!!あの時と今では!!」
「...そうね、必死なのは変わらないけど今は嬉し涙の方かしら?」
「......分かってて言ってるでしょ」
「感謝してるのよ。あの時亡霊達に連れ去られていたら今の幸せは無いもの...愛してるわイデア」
「ウグゥッッ!......ぼ、僕も...愛してる...」
あの時の綺麗な青は髪先を桃色に染めながら私を見る
そして2人でウェディングドレスに身を包み扉を開けた
拝啓、名も知らぬ友達へ
恋のキューピットか、或いは冥界へ誘う亡霊か
貴方の魂に釣られた私は今蜂蜜のように甘い彼の目を見つめ死んだその先も誓い合う愛の言葉を交わしている
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