短編 | ナノ
 イデアの「異議あり!」





監督生はオタクである
幼少期からアニメを見まくって育ったし、色んな種類のゲームも粗方経験済みだ
つまりイデア・シュラウドと大変仲が良い

だが監督生は大きな秘密を抱えていた
それは、監督生がこの世界が元の世界では「ツイステッドワンダーランド」というゲームである事を知っていること

知識ありトリップってやつじゃないですかぁ!と監督生はオタクなので大変興奮したが、「実はあなた達、ゲームのキャラクターなんですよ」なんて言えるわけない。逆の立場で自分が実は造られた世界の造られたキャラだと言われたら落ち込むし何も信じられなくなるし非人道的だと思ったからだ

なので内心グリムを見て「想像以上のもふもふと毛並み具合!触れるなんて思ってなかったから堪能したろ」とか、エースと初めて会って「しゃ、喋っている!口が動いている!喉仏が動いている!その前に顔がいいなぁ!?」とか、ヴィルを見て「え、顔すご、顔良!顔良すぎて2度見じゃなくて釘漬けになる事あるんだ。瞬きする度に揺れるまつ毛で台風起こせそうだな」とか言ってはいけない発言を言わないように脳内と心はさながら紛争地帯と化している

だが忘れてはいけない、監督生はこの世界を知っている以前にオタクなのでアニメを見たいしゲームもしたい
そこで、イデアがいるじゃん。と思い立って引きこもりコミュ障根暗オタクを口説きまくって引きずり出し、自分も同じ穴の狢であることを懸命にめげずに何度も伝え仲良くなる事に成功したのだ


「うっっわぁ、ここでその技使ってくるってほんっっと性格悪いですねイデアさん」

「負け犬の遠吠えってやつ?聞いてて気持ちいいからずっと吠えててくだされ監督生氏は相変わらず攻撃パターンが同じで脳筋すぎますなぁ?」

「そうだ、イデアさんが生きてるって事忘れてました。対NPCばっかりやってたので気づかなかった...」

「いや流石に酷くない?後半はともかく前半酷くない?泣くが?普通に泣くが?」

「負け犬に泣かされるお気持ちはいかが?」

「監督生氏が本当に泣くまでこのゲームでボコす」


イデアの自室にて今日も今日とて一緒にゲームをし、エナドリを飲み、パーティ開けされたポテチを真ん中に置いてオタク生活を楽しんでいる
ちなみに初めてパーティ開けという物をした時イデアは感極まり「こ、これが...」と声を漏らして何故かポテチ単体の写真を撮っていた

2人してコントローラーを握りカチャカチャ音を鳴らして操作しながら煽り合い罵り合えるぐらいに仲が良い

本当にここまで辿り着くのは至難の業だった
なんせ有り得ないぐらいエンカウントしないし、話しかけてもイデアは人語を忘れたかのように喋れないし、ネガティブなのは知っていたが1歩間違えると本当に手が付けられないぐらい自分の世界に入る
いくらキャラクターとして知っていても目の前に居る人は動き話し考え、生きている相手なのだ、ゲームみたいに選択肢はコマンド表示されないしリセットも効かない
イデアがゲーム内で「ほんと3次元ってやつは」と言っていた理由がよく分かる

事件が起こったのは休憩も挟まずイデアと同じゲームで再戦した矢先である


「ま、...ままま、負けた...?」

「っしゃー!!!初勝利!!やっば!イデアさんに勝つとかやっっばい!!めちゃくちゃ嬉しい!今ならバク転もバク宙も出来る」


数えたらキリがないぐらい一緒にやっているゲームで監督生が初めてイデアに勝利したのだ

元よりゲームも得意としていた監督生はこの世界のコントローラーを死ぬほど握りしめゲーム理解度を高めいつも負かされっぱなしで毎度勝ち誇り嘲笑うイデアの顔を思い浮かべオンボロ寮でもゲーム練習していたのだ

イデアはWINNERとLOSERと表示されている画面を目を見開いて固まっているが監督生は飛び上がって喜びを噛み締めていた


「監督生氏に負けるって...え、異世界から来たポッと出の輩に負ける...?え?」

「流石に後半酷くないですか?」

「拙者の人生何だったの?アニメやゲーム、アイドルまであらゆるジャンルのオタクとして有り得なく無い?オタクって名乗れないじゃん...」

「いや、オタクって名乗るのに資格とかいります?」

「名乗るとかそれ以前に存在価値無くない?拙者は光合成も出来ない細胞以下。え、なんで酸素吸って二酸化炭素吐いてんの?害じゃん。普通に害じゃん。世界的害じゃん。今すぐ消えてよろし...」

「天才が何言ってるんですか」

「そうだよ、僕は生まれた瞬間から害なんだよ。知ってた。知ってるけど理解したくなかったんだよ、心が豆腐より弱いしシャボン玉より壊れやすいんだ。いくら勉強して研究して知識を積んでも不完全で生命体に害をなす生物なんだ僕は」

「落ち着いてください」


やばい、イデアの目が三途の川の向こうを見ている
1度オタク仲間にゲームで負けたぐらいでこの人は手が付けられなくなってしまう、本当どうしようも無い。まぁかといって手は抜かないが


「この程度で負けるって何?...って事は僕が出来る事、発想創造する事なんて誰にでも出来るくない?僕やっぱ要らなくない?」

「今私の事この程度って言いましたよね?てか1度負けたぐらいでどんだけ凹んでるんですか」

「チンケな僕は二足歩行してるってだけでヒト科では無かったって事だ。人類史見直す案件じゃん。僕を研究施設に入れて今すぐ研究し、どの生命体か判断すべきでは?目の前に3つのバナナ置いてどれを選ぶか誰か研究データ取ってくれよ」

ッ!あー!もう!!だからネガティブ思考スパイラル止めてくださいよ!!だから入学式でも勘違いして部屋で引きこもるんですよ!!」

「.......え?」

「あ」


時すでにおすし。
監督生は目の前で自分の話も聞かずに自虐に突っ走るイデアについ言ってしまった

確かにイデアは入学式に生身で出るとオルトと約束しリドルに啖呵まで切ったが結局タブレット出席した
だがなぜタブレット出席に至ったかの経緯を入学式に異世界から来た監督生が知る由もない
それを知っているのはイデアの式典服パソストを知っていないと出ない発言だ

これがこれ程仲良くなる前ならこんな発言しなかっただろう、だが今は煽り合い罵り合える仲に発展してしまったが故つい監督生は禁じていた事を言ってしまった


「監督生氏、今のどういう事?」

「え、えっと、比喩っていうか...」

「比喩でさっきの断言的発言は出ませんが?」


先程までのネガティブ思考スパイラルはどこへ行ったのか、イデアは冴えた頭と疑う目つきで監督生をじっと見る


「勘違いって何?てか入学式の事監督生氏が知ってるはず無いよね?」

「いや、あの、」

「今僕に話すならそれが秘密事項なら秘密保持を約束するが、話さないなら寮長会議や学園長にも話して公の場で口を割らせる事も可能だが?」


尋問よろしくオクタヴィネル寮がやりそうな手口でイデアは監督生に迫る、これは紛れもない脅しだ。さすがNRC

監督生は痛い頭を抑えながら観念し「秘密保持をお願いします...」と項垂れて降伏するしか無かった

本当は誰にも、特にイデアには言いたくなかったが言いよどみながもここがゲームの世界であると告げたのだ

先程までゲームを楽しんでいた雰囲気をぶち壊して監督生は下を向いていた顔を恐る恐るあげるとそこには絶望も落胆も怒りも無い、ただ納得したようなイデアの顔があった


「やっぱりっすわ、薄々勘づいてはいましたわ。監督生氏の時折変な発言、拙者がアニメやゲームオタクだと知った上での態度。最初から知ってた、みたいな」

「...ごめんなさい」

「なんで謝るの?拙者が聞いて監督生氏は嘘をつかずに答えた。...でも確かにこれが公になるのはヤバいと理解出来るので秘密保持を約束する」


なぜ目の前のネガティブ思考陰キャはこうも悠々としていられるのだ、自分が造られた世界の造られたキャラクターだぞ?絶望し憤慨しないのか、1番錯乱しそうなキャラなのに

イデアは監督生の心情と裏腹に難しい試験の答えがやっと分かったみたいなスッキリした顔で監督生を避難する訳でもなく隣に座り直した


「.......で、気になる事が」

「わ、私に答えられる事なら...」


イデアは胡座をかきながら頬を人差し指で掻き監督生をチラチラ見ながら質問する
監督生は秘密がバレてしまった今もうイデアに平伏するしか無いと思いながら気まずそうにコントローラーを握る手を見つめながら返答した


「そ、その、君がこの世界の事を知ってて拙者に近づいたって事は拙者は...もしやモブでは無い?」

「え?あ、メインキャラです」

「ブフォ!!!!!!!」

「汚っ」


何を聞かれるかと思いきやイデアは自身のキャラ位置を気にしていたのか、監督生の即返事に思わず唾を吐き散らかしてしまった。かたじけない

だがイデアは自分の知的好奇心には素直で忠実だ、気になってしまえば根掘り葉掘り納得するまで聞きたくなってしまう


「ぼ、ぼぼ僕がメインキャラ!?はぁ!?意味不!!で!!どんな設定なの!!!」

「ち、近い!イデアさん近いです!」

「アッ...スマセ...」


メインキャラならば公式設定があるはず、聞きたい、自分を客観視できどころか本当の意味で他者からの印象が聞けるではないか。とイデアは興奮して隣に座る監督生の肩を掴み自身に引き寄せて顔を近づけ過ぎた

状況に気付いたイデアはすぐに監督生を離し元の位置に戻り監督生の言葉を待つと監督生は目を横流しにしながら小さい声で話し始める


「設定...えっと、オタクで引きこもりでコミュ障で、す...」

「同意ってかそのままやないかい。他には?」

「...対面会話が苦手で.......根暗」

「知ってる」

「え、傷つかないんですか?」

「いや客観視するまでもなく自覚してる事言われても...1+1は2ですよみたいなもんで。もっと自分でも気づかなかった!みたいな発見が欲しいんすわ」

「つくづく変わってますね...なんだろう、発見...発見...」


イデアも別に全く傷付いていない訳では無い。だが監督生は隠していた気だろうが最初にイデアが言った通り監督生がイデアに近づくのは不自然すぎたのだ
初めましてから何故かアニメの話やゲームの話題を振ってきたり、イデアがネガティブ思考に入らないよう言葉を選んだり、そして気になってしまえば他の生徒と話している時の監督生の態度も何故か皆の性格を知っている様な振る舞いをして上手く立ち回る。まるで初めから知っているみたいに
そして何より異世界に飛ばされてきたというのに激しい動揺や元の世界に帰りたいと泣き喚く事無く過ごしていたのでイデアは前からあらゆる過程を立てていたのだ。その1つに監督生はこの世界を知っている、という物があった

まぁまさかゲームの世界で自分がメインキャラだとは思わなかったが

一方監督生はイデアを驚かせれるような発見と言えそうな物を首を傾げて顎に手を添えて目を瞑り考えていた


「あ!えっと、顔が良いです」

「えぇ...ありえんが...」

「本当ですよ!顔も良いですし、天才なのでファンが多いです。人気キャラ投票とかで上位です」

「!?!?!?!?」


イデアは声にならない声を上げて驚いたのを見て監督生は期待に添えられるような答えが出来たかもしれない、と今までに無い具合の驚き固まるイデアを見て微笑ましくなった


「えええええぇ......君の世界どうなってんの?ぼぼ僕なんかがメインキャラのみならず、にに人気キャラ...?バグでも起こしてんの?世界を超えることが出来るなら僕がその可哀想な誤認バグ何とかしてあげたいよ...」

「悲観的過ぎますね流石です」


イデアはやっと落ち着いた頭で信じられない、と本当にドン引きした顔で人気キャラに選ばれているにも関わらず監督生の世界を否定し始める始末だ、仕方ないイデア・シュラウドなので

自分でも知らない事を知りたいと言ってきたのはイデアのくせに伝えたら驚きはしてくれたがその後には案の定毒が返ってくる

毒を吐き相手を煽り余計な一言以上の言葉で相手を苛立たせるのは今に始まった事では無いが狼狽えるイデアを見て普段の鬱憤を晴らす機会では?なんて邪な考えが過ぎってしまう


「私がイデアさんのルックスなら毎日5時間は鏡見たいし、イデアさんの頭脳を持てるなら世界中に自慢しますがね」

「やややめろよ!拙者は自分が知らない事を知りたいだけで感想は求めてないでござる!」

「失礼?」

「...でも感想、感想か。監督生氏、聞きたいことが」

「答えられることなら...」


燃える毛先を桃色にしながら狼狽えたかと思いきやすぐに冷静になり律儀に挙手してまたもイデアの質問が始まりイデアのペースに戻る


「先程、非常に信じ難い事に...人気キャラだと言われましたが拙者なぞが選ばれた理由は...?」

「顔が良くて頭もいい。面倒見のいいお兄ちゃんだし」

「顔が良いならヴィル氏がダントツでは?レオナ氏もですし。頭が良いのは認めますが、お兄ちゃんならトレイ氏とかジャック氏もいますし」

「同意します。うーん、そうだなぁ...あ、愛が重そう...とか?」

「は?」


監督生はイデアの疑問を晴らすべく真っ当な回答ばかりしていたがどれもイデアの納得出来る答えに辿り着けなかったらしい
困った監督生はイデアから少し視線を外して恥ずかしそうに答える
これ以上彼を納得させる回答を持ってこなければいけないとしたら元の世界でイデアにリアコしていた子の発言を提示するしかなかった

元の世界で監督生はストーリーが好きでプレイしていたが序盤辺りでこの世界に連れてこられた
そして監督生と仲の良いオタク友達の女の子が毎度イデアの好きな所を語るのだ、それを思い出しながら答える

故にこれは公式設定では無いのだが「こう見られている」には該当するのではないだろうか。というのをとりあえずイデアに説明した


「あ、あああ愛が重い...?」

「例えばそうだな...これは1部の人が言っている。っていうのを念頭に置いて欲しいのですが、一途そうとか」

「それが何故愛が重いと?」

「...好きな人の事監視する為に発信機とか付けてそうだし」

「異議あり!」

「他の人と仲良くして欲しくないって理由で監禁とか考えそうな人だし」

「異議あり!!」


イデアは机を叩いてそんなデカい声出せたの?ってぐらい大声を出しながら立ち上がった


「え、君の世界大丈夫そ?いや大丈夫じゃないか修羅の国か。発信機付けるって何その発想、プライバシーとか無いわけ?しかもか、かか監禁?その怖すぎる発想どこから来たの?普通に犯罪だし人権無さすぎない?世界超えて訴えること可能?しかもそんな事をするような奴が好きって所に恐怖以外の感情が出てこないんだが」

「1部の人ですってば」

「1部でも居るのが本当に怖い。君の国誰がイカれた発想できるか選手権でも開催されてんの?僕がそんな事しそうって思われてる?何から改善すればそのサイコパス倫理振り切れる?とりあえずめちゃくちゃ笑顔でカリム氏に挨拶でもすべき?」

「まぁ挨拶は大切ですね」

「...やっぱ嘘。出来ない。ちょっと考えたけどカリム氏に挨拶したらそのままスカラビアに連れて行かれてパレードとかされそう、吐き気してきた」

「失礼な人ですね。まぁ1部の人ですので、お気になさらず?」

「いやめちゃくちゃ気になりますが?」

「とりあえずイデアさんを驚かせれるような回答が出来たのでこれで勘弁して頂けますか?」

「ま、まぁ...」


イデアは少し落ち着いて来たのか座り直して深呼吸を繰り返している
監督生はイデアが狼狽えている今のうちだ、とこれ以上聞かれる前にこの会話を終了させ、今日はもうゲームなぞ出来る空気では無いので帰りますね、と急いで自分のエナドリをゴミ箱に捨ててコントローラーを仕舞った

そして部屋の扉を開けて外に出る瞬間、未だ色んな思考がグルグル周り壊れかけのイデアの背中にそうだ、と顔を向けた


「言っておきますが、私はこの世界に来てこの世界の人をゲームのキャラだと思って接していませんからね。皆考えて喋って心がある生きてる人間なんだと思ってますから。それじゃまた、遊んでくださいね」


返事は聞こえなかったが監督生は部屋を後にした







監督生が部屋を出て2時間後、イデアはいつも通りPC画面を見つめていた


「ただいま、兄さん」

「おつー、オルト」


後ろから部屋の解除音と共に弟のオルトが帰ってきた
この部屋は外からでは自分かオルトしかロックを解除出来ないので普段通りPCから目を離さずにオルトに返事をする

オルトはイデアの背後に移りPCの画面を見るとはぁー、とため息を零す


「兄さん、また監督生さんの事見てるの?」

「まぁね」

「監督生さん知らないんでしょ?監督生さんの部屋にそのカメラつけられてる事」

「カメラだけじゃなくて発信機も盗聴器も設置済みですが...まぁ監督生氏には伝えてませんな」

「監督生さん怒らない?」

「問題ないっすわ、監督生氏の世界ではこれが愛情表現になるみたいですし?フヒヒッ」

「そうなの?アップデートしておくね」

「くれぐれも監督生氏には伝えないでね?」

「兄さんが言うなら...」


PCに映されたオンボロ寮の部屋でグリムと寛ぐ監督生を見てイデアなニヤニヤしながら画面を撫でた







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