4.薬指にくちづけを


 今はまだやらなければいけない使命があるから、あなただけの私にはなれないけど。全てが終わったら、私はあなたの花嫁
つま
になるから。だから、勝手なお願いだけど八百万界が平和になるその瞬間
とき
まで待っていてほしいのです。

 改めて言わなくても大丈夫。おれは理解して、付き合ってくれと告げたんだ。独神さんだけにしか出来ないのだから、おれは一番近くで手伝うと決めた。後は誰にも渡せない、渡したくないからこそ伝えちゃったのもあるけど。

 ありがとう、コトシロヌシ。でも今思えば、私達が付き合う切っ掛けって私の思い込みと言うか、暴走が原因だからお恥ずかしい限りで……。

 確かに驚いたけど、悪くはなかったよ。だっておれの事を凄く考えてくれたって事でしょ? 嬉しくない訳、ないじゃない。独神さん自らおれの腕の中に飛び込んでくれたんだから、この好機を逃がすなんて考えられないしね。

 
 私達二人が付き合う切っ掛けとなった一連を思い出していたのか、コトシロヌシは大層ご機嫌だ。あなたは良いかもしれないけど、私はひたすら恥ずかしい。

「おれが悪かったから、ごめんって」

 少し意地悪な託宣神は、空気を感じ取って私の機嫌を取りに来たけど、その言葉は普段よりもずっと軽い。今日はもう早々に切り上げて自分の部屋に戻ろうと思ったら、コトシロヌシは真剣な表情で私の左手を掬い取り、恭しく薬指に口付けた。

「約束。神との契りは、絶対だから」

 だから不安にならないでと、暗に言われた様で私の顔に朱が走る。悔しいけど、やはりコトシロヌシの方が上手です。普段は柔和で愛らしい感じの彼だけど、いざとなれば凛々しくてそれがまた格好良いのだから本当に困る。

 少しだけ悔しかったから、私は仕返しにそれ以上の事をし、一目散に自分の部屋へ戻っていった。

「……あー。かなり愛されてるかも? おれ」

 一人残されたコトシロヌシ。左手の薬指の中程には、うっすらと歯形が付いていた。すぐには消えてしまうけど、確かに大事な物を受け取ったよと既にいなくなった独神に向かって呟く。


「婚前だけど、独神さんを丸ごと欲しい。って言ったら怒るかなぁ」

 許されるなら、余す事なくあなたをーー。

2017/12/02
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