04.心を犯す優しい手


 これ以上はだめなんだと、頭では理解しているのに、それでも俺は自分から拒めない――。


 直兄は兄弟で、家族で、当家の大事な跡取りで。だけど、そんな事関係なく誰にでも平等に優しくて。だから、勘違いしそうになる。

 情愛に満ちたあの瞳には、恋愛感情なんて映らない。優しさに溢れた眼差しが、却って胸に深く突き刺さる。

 ふわりと微笑んで頭を撫でてくれる、その手から伝うのは信頼という名の家族愛。

 だけどそれは、今の俺にとって内側からゆるりと侵す毒でしかない。この身を、心を蝕んでいく。お願いだから、これ以上優しくしないで欲しい。決して手に入らない物を、望んでしまいたくなってしまう。


「直兄……んっ、な、にぃ……ああっ」

 切なく震え溢れ出る、自分の欲を手で擦り、慰めていく。どんなに心が求めても、得られぬ幻想を目蓋の裏に描きながら、自慰に耽る。

 告げられない想いを抱えたまま、今宵もただ一人、闇に紛れて涙と精を吐き出すしかなかった。

2017/05/14
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