1.誰にでもスキだらけ


 こう言っては何だが、自分よりも他人の事に疎い奴がいるとは思わなかった。ある意味とても王族らしいのかもしれないが、今はそんな悠長に考えている場合ではない。俺自身も王家に連なる者だが、多分ここまででは無いだろうと思う。


『お前の事は好きだぞ、心から信頼できる』


 戦場で勇猛果敢に槍を振るう様からは想像しにくい、邪気の無い笑顔でそう告げる。飾らない言葉はエフラムらしく好ましいが、その素直さは特に王宮で、仇となる事が多いだろう。

「どうしたんだクロム、変な顔をして?」

 やめろ、少し首を傾げて人の顔を凝視するな。湖面を思わせる瞳に感情の揺らぎは見られない。本当に他意は無いのだと気づき、俺は天を仰ぎたくなった。

 誰だ、こいつをここまで放っておいたのは?

 守るべき筈の従者達は一体何をしていた?

 槍一本で大陸一を目指していたとか、王位を継ぐ前は傭兵になるつもりだったという言動から一見粗野な印象を受けるが、整った顔から分かる高貴さと、思っていたよりずっと真白の成り立ちから放つ、色を知らない未成熟なこの王子は良くない輩を惹きつける。

 先の戦いで出会ったヴァルターという者からは、妹姫だけでなく己自身も執着の対象に入っているという事を理解していないのだろう。今だって、欲を湛えた目で見られているのに全く気付いていない。

 確かにお前は強いのかも知れないが、もし信頼している相手から手酷く裏切られたらどうする?  お前の意思と心を置き去りに、望まぬ行為を強要され、その瞳が曇り濁っていくのは到底我慢出来ない。


 どこまでも真っ直ぐで、他人を信用し自身の事はあまり顧みないエフラム。


 出会った頃のルフレよりある意味危うい目の前の人物に、もう少し危機感を持てと、この時程俺は苛立ちを感じた事は無かった。

17.04.09
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