ユウ


東京某所。ホテルの一室にて。
冴えないおっさんだなあ、俺はサービス精神も忘れてそう思ってしまった。
インターネットで使用者の距離から一時間以内の場所にいるデリヘルボーイが探され、そこから顔写真や体型を見て好みを選ぶ。それが俺がボーイとして働く仕事だ。気に入られると一時間以上かかる場所にいても呼び出してもらえたりチップも弾む。
自分の美貌にはこう見えて自信がある俺だし、何だかんだ気に入ってくれる人も多い。今日も午前中にチップをたくさんくれる常連に呼び出されて、セックスしたばかりだった。午後はのんびり出来るかなあと思ってたけど人気者の俺には無理らしい。
利用者はボーイを選べる、しかし逆はもちろん無理だし拒むことも基本は出来ない。ただボーイは利用者の情報を見ることが出来る。今俺を呼んだのは初めて見る名前だった。場所はここから15分程度の場所にあるホテルなので、単純に近い人を選んだだけだろう。
そうして来たホテルの部屋をノックすれば、アラサーを迎えた感じの少し疲れたような顔のおじさんだ。脂ぎったなハゲ散らかしたおじさんよりマシだが、何というか平凡で普通なおじさんである。
こういう人に限って案外変態だったりするんだよなあ。もちろん経験則。
「こんにちは」
「どうも、入って」
人の良さそうな顔の割に素っ気ない。背中を向けて入っていく姿を見ておそるおそる追いかける。ホテルの部屋はかなりの期間借りているのか新聞や半分ほど入ったペットボトルがあったりと散らかっている。
変わった色のネクタイをしゅる、と抜いている姿を見つめていると、おじさんーー登録名は藤原だったーーは疲れたように笑った。あ、えくぼ。
「ちょっと仕事で疲れてるから、抜くだけ抜いて欲しいんだよね」
「あ…はい」
何というか拍子抜け。うちのサービスは質の良さとかで売ってるから、おかしな性癖の客が多い。変なこと頼まれたりするのが半数以上で、逆に抜くだけ抜いてなんてあんまりない。サービス業なんだけど。
本当に疲れてるんだなあ。サラリーマンにはなったことがないから分からないがホテル生活なあたり出張なのかもしれない。
ベッドにさっさと転がった藤原さんは、ベルトを緩めてペニスを出す。疲れているが欲求不満なのか、緩やかに勃起している。大きさも普通だなあ。
こんくらいの仕事で、お金もらえるならありがたいかも。さっさと済ませようっと。
「疲れてるんですね…失礼します」
「あはは…まあ、ね」
返事にも力がない。
ローションを手につけて、上下に擦るだけであっという間に硬くなる反応の良さは好き。コンドームもしっかりつける。
午前の仕事が終わった時点でちゃんと洗っているので、そのままアナルに指を入れて解すと騎乗位のために乗り上げる。起きてはいるけど、目を閉じたまま脱力しているのが、なんだか勿体無いというか…。物足りないなあ。
勃起したペニスをアナルにあてて、ゆっくり腰を下ろす。圧迫感にはもうとっくに慣れている。
「ぁ、んっ…」
はー、気持ちいい。
少しキツイのかな、眉根が寄ってるけどでも気持ちよさそう。
「ん、んぅっ…あっ、あ、」
腰を上下に振ると、わざわざ当てなくても前立腺を突いてくる。じわじわと広がる快感は、午前中の仕事にはあまりなかった。
身体の相性はいいなあ。
そう思ったけど、藤原さんは目を閉じたきりだ。静かな呼吸音はもしかすると寝ているのかな。そしたら残念だ。
いつもの痴態を見つめて笑みが止まらない利用者ばかりなせいか、物足りない。もっと、いやらしい俺を見て欲しいのに。
「あぁんっんっあんっ!あっあっ、おっきぃ…ッ」
わざとらしく喘いで見た。閉ざされた目がこっちを見てくれるんじゃないかと期待して。
「ああッだめぇ、…あんっごりごりっすごいぃーーッ」
こんな仕事をしているが、仕事が上手くいけば褒められるしお金ももらえる。俺を指名する人はそんな俺をよく知って終わった後は頭を撫でて褒めてくれる。最高だった、可愛いかった、言葉はいろいろだけどどれも嬉しい。
その閉じてる目の奥で何を感じているのか知りたい。俺のこといやらしいって思ってくれてるのかな、気持ちいいって思ってくれてるのかな。
「あんっあっあ、んっやあんっあっ」
「…」
「きもちぃ、っあっすごぉいッ!」
「……」
「ああっ感じちゃうっあんっあっひぁあーーッ!あっ!」
驚くくらいナカで感じてしまう。いつもはこんなに締め付けてないのに、感じたくて感じたくてきゅうきゅう締め付けてしまう。そうすると藤原さんの亀頭にぴったり前立腺がくっついて身体を支える足が崩れ落ちそうになる。
咄嗟に手を藤原さんのお腹につくと、虚しい気持ちになる。この手を支えてくれたらいいのに。
なんとか腰を上下させて、奥まで来たところを締め付けて。身体の奥から蕩けるような甘い快楽に、涙がこぼれた。
「ぁっ、あっああっ!」
気持ちいい。思わず顔を手で覆う。気持ちよすぎてどうにかなりそうだった。
「あっあんっもう…い、ちゃう…ッ!」
「…」
「ふ、ぅうっ…ああっ、ふ、じわらっさんっ…!見てぇっ、もう、あっあんっあんっ!ああーーッ!」
頭が真っ白になる瞬間に、藤原さんと目が合って、ドキッとする。そして射精。ピュ、とこぼれてスーツを汚しそうになるのを慌てて抑えながらもナカが収縮して律動を感じる。
「ふ、ぁっ…」
「…ありがとう、気持ちよかったよ」
疲れた中にある、優しげな微笑みを見て胸がキュンとなる。
うわ、どうしよう。
嬉しい。嬉しいし、これで終わりにしたくない。

「あの!」
「ん?」
渡された紙を見た藤原は、不思議そうな顔をしながら胸から名刺を出す。デリヘルと名刺交換と思いつつも渡されたら渡す、そんな癖がついている。
「電話番号、書いてあるんで…あの、連絡下さい」
へ?間抜けな声を出して紙をめくると裏には携帯電話の番号が書いてある。
「ああ、うん…わかった、ありがとうユウくん」
穏やかな笑みにそれが優しい嘘だとデリヘルのユウは気付く。場しのぎのような言葉でも、ユウは名前で呼ばれたことにキュンとした。恋は盲目と痛いほど感じた。
ユウが先にホテルの部屋を出ると、藤原はその少し後に出て行く。藤原はこれっきりの関係だと考えているが、そうではないと知るのは約10日後の話である。



前へ◎戻る次へ
ホーム


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -