メインイベントは前夜祭で3 | ナノ


※一部エロ



 車に乗った第一印象「シートのにおいに紛れて牧野先生のにおいがした」
 俺は変態か。でも物凄い落ち着かないんだ。四方八方から牧野先生のにおいがして、牧野先生のプライベート空間ということが実感できてしまう。それこそ社会科準備室なんかとは比べ物にならない破壊力で、シートベルトをしてくださいねという言葉でようやく我に返る。
 そんな状態だから、校門を出てから近所の道に入って先生にルート説明をお願いされるまで、その間の会話をほとんど覚えていない。
 一応断片的に覚えていることはあって、ワイパーを最大にしても不明瞭な前方の視界に「ちょっとゆっくり帰りますね」と言われた時は小躍りしたいくらい嬉しくなった。豪雨がなければこうして先生の隣に座ることはできたなかったのだから、雨様々だ。
 しかしそれによって会話が掻き消されるほど車内がうるさかったのは交換条件としては厳しくはないか。聞きとれるか怪しいレベルの牧野先生の声を、それでもめげない俺の耳は、集音マイクでも付いているのかというくらい懸命に拾っていた。
 …でもその会話内容を忘れるんだから世話ないよな。


 見慣れた路地に入って自宅の外壁が見えてきた。
 牧野先生は極力雨が当たらない場所を選んで車を横付けしてくれた。助手席のドアから玄関までが一直線上に結ばれ、停車と共に両側のウインカーが点灯する。
「はい、須田くん着きましたよ」
 せっかく先生と二人っきりになれたのに、ほんの数十分で時間が終わってしまうなんて。
 動かない俺を気にする風もなく、先生は後ろの座席に置いていた鞄を取るためシートベルトを外して中央の隙間から上半身を乗り出した。自然に先生との距離が近くなって自分も何気なく先生の方を向いたら、車のヘッドライトと車内のオーディオやらの明かりで浮かび上がる牧野先生の横顔が―――凄く綺麗だった。
 気がつけば顔の真ん中から少し下の方、唇ばかり目で追っている自分がいた。

 少し厚めのそれはふっくらしてピンク色で、触ったら指が埋まりそうな弾力を想像させる。
「ご両親に、ご心配おかけして申し訳ありませんって私が言っていたと伝えてくださいね」
 牧野先生が喋る度に開かれる唇の中には、白さが際立つ歯とその影に隠れた舌があって、言葉と一緒にそれが踊ってるみたいに動いていて―――なまめかしいってこういうのを言うんじゃないだろうか。
 他にもまつ毛も結構長いんだとか、髪艶々じゃん、うわーヒゲ生えてねぇーとか、シャツと首の間にほんの、本当にほんの少しだけ隙間があって、その先は見えないんだけどどうなってるのかな………って、俺は何を考えてるんだ。
 何で先生を見てこんなことを考えているのか自分事ながら理解不能だ。けど、牧野先生だと思うと、それだけでドキドキしてくるのはなぜなんだ。
 今だって、横を向いた時にできるすっと通った首筋の下には何があるのかを考えている。
 きっと浮き出た鎖骨があって、グラビアアイドルより綺麗な窪みができてそうで―――完全に脳内イメージだけど妙にリアルに想像できる。

 俺が瞬間的にそんなことを考えている間も、先生は至って普通に通学鞄代わりにしているリュックを先に手渡してくれて、その後サブバッグに手をかけた。
 そして先と同じように手渡そうとした瞬間、おもむろにサブバッグの外ポケットから何かが落ちていった。
 あっと小さく叫んだ二人の声が重なって、それはシートの下に転がったのかあっという間に見えなくなる。
 俺もようやく現実に意識が戻った。

「何が落ちました?」
「分かんないです、何入れてたっけなぁ。なんか黒かったっすよね」
 羽高に指定の通学鞄はなくサブバッグだけが指定されている。エコバッグにマナ字架をでかでかとプリントしただけ、みたいなダサいバッグなのだが、めちゃくちゃ使いづらい。今のようにしょっちゅう物が落ちるのだ。
 だからどうせ大したものは入れていないと思うのだけど、牧野先生は車内灯の僅かな明かりを頼りに、座席をずらして覗き込もうとしたり懐中電灯を探したりと、何とかして取るつもりらしい。
 そうは言ってもこの大雨なので、外に出て自分も退いて一緒に探すこともままならない(家に一旦入って傘を取ってくれば可能だったのに、この時は全く気づかなかった)。
 窓に頭を押し付けて下を伺っても真っ暗だし、手を伸ばそうにも体勢が辛すぎる。
「須田くんはいいですよ、座っていてください。一応須田くんよりは手が長いと思いますし」
 そう言って牧野先生はシャツの一番上のボタンを外した。
 何が始まるのかと思って一瞬心臓が高鳴ったら、下を向くのに不便だったかららしい。そうだよな脱ぐ訳ないよな。

 ここで俺ははたと気づいた。何か自分はおかしくないか、と。
 昼に車に乗れなくてもやもやしたのもそうだし、今も先生が脱ぐのを期待していたし、普段も女子みたいにあからさまじゃないにしても牧野先生の行く場所を優先して追っかけたり……大体いくら憧れの先生だからといって、車に乗るくらいでこんなにはしゃぐものなのだろうか?憧れってここまでのものだったか?
 昼に中断した疑問が再度湧きあがってきた。

 散々、変態だなんだと自嘲していて気づいたけれど、これはもう明らかに恋愛にシフトしているんじゃないだろうか。そう考えたら全ての説明がつく。
 昼のあれも……嫉妬だったんじゃないだろうか。
 唇を見たのはキスしたいから、脱ぐのを期待したのはそういうことをしたいからだろう。やり方も知らないのにすぐにそっち方面に持っていくのはエロに飢えた青少年の悪い癖だよな。
 しかし感情の正体に気がついても自分が気持ち悪いと感じない辺り、俺は手遅れなのかもしれない。むしろ牧野先生ならありだろと思っているくらいだ……だって牧野先生だし。


 牧野先生は腕だけを奥まで突っ込む手探り作戦に出るらしい。手じゃないところに当たるかもしれませんし、と言って捲った腕が白すぎる。
 シートの下に手を入れると必然的に顔もシートに近くなる、つまりどういうことか。
 牧野先生の顔が俺の下半身に近づくということだ。腰の周りで顔の角度を変えて腕が伸ばしやすい位置を探している。こちらと目が合って、牧野先生がニコッと笑った。
「もう少しで取れそうですよ」
 何て言っているのか、先生の声が聞こえない。
 口が動くと先ほどのように唇とか舌に目が行ってしまって、とにかく駄目だこれは。だって位置的にあれに近いというか……下を向いて上下する頭にエロいことを考えてしまった。
 恋愛感情を認めた上にそんなエロい姿を見せられたら、全ての思考がエロ方面に向かいだすのも健康優良日本男児なら仕方ないと思う。


 狭い車内で牧野先生は助手席に座った俺の足元にうずくまって、フェラをしてくれている。
 先生のテクは絶妙で今にも射精しそうなくらい気持ちがいい。落ちてくる前髪を時折掻き上げながら、口でかばいきれない部分をもう一方の手で扱いている。先生は一生懸命咥えるのだけど、完勃ちしたそれは口を前後に動かす度、勢い余って飛び出してしまうほど大きく膨らんでいた。
「あっ、須田くんすごいぃっ」
「先生うますぎ…っ…出ちゃうっ」
「ムリぃ…大きすぎてもぅ入んないぃ…」
 あまりの大きさに苦しいのか先生はいやいやをするので余計に口から外れてしまいやすくなる。そうすると亀頭や竿が牧野先生の顎や頬を何度も滑っていく。口元と言わず顔の下半分はほとんどべとべとだった。
「先生飲んでっ…俺の…!」
「ああぁっ!」
 先生は最後まで咥えていられなくて俺がイクのと同時に口を離してしまった。放たれた精液が先生の顔に飛んで、鼻筋や瞼、頬から白いものが伝っていく。
「あん……いっぱい出たぁ…」
 牧野先生は嬉しそうに顔に付いたそれを指で拭ってそのまま口に――――――


 いやいやいや。
 我ながらビックリした、なんだよこの妄想は。
 牧野先生そんな言葉遣いしないだろ…ていうかこれ、こないだクラスのヤツらと見たAVに、丸々先生を置き換えただけじゃんか。
 大体どうやってそんな狭いとこに入ったんだよ、絶対スペース足りないって。
 俺のも…そんなデカくないし……


 現実の牧野先生はもちろんそんなことはしていない。ようやく例の物に手が届いたようで、手を引き抜いているところだった。
「はい、取れましたよ」
 若干汚れてしまった先生の手の中にあったのは、ビーズで作られた人形のキーホルダーだった。
 思い出した。
 この前の台風で途中下校になった日、美耶子が鞄を落とした拍子にホルダーの部分が壊れて、鞄も汚れちゃったしそっちに入れさせてと言われて、咄嗟にここに突っ込んだんだっけ。
「見つかって良かった……」
「大事なものだったんですか?見つかって良かったですね」
 探してくれたのは先生なのに、まるで自分は何もしていないかのような口ぶり。先生はいつもそうだった。自分の功績も評価も関係ない、いつも相手のことだけを考えて行動する。その結果失敗する時もあるけれど、そんな謙虚で気が弱くて優しい牧野先生だからみんな先生に憧れるし、辛いことがあっても先生のためならって頑張れるんだ。
 自然に俺の煩悩までが浄化されて、一気にエロの部分が縮小していく気がした。

「じゃあどうぞ、これ」
「はい、ありがとうございま―――」
 だが先生が差し出したキーホルダーは俺の手のひらの指の合間からバランスを崩して、再びシートの隙間に落ちていった。
「うわっ!」
「すっ、すみません!」
 先生が謝る必要なんてない、今のは確実に自分のせいだった。
 シートとシートの間のスペースに落ちていったのは見えていた、狭いが自分なら取れるだろう。顔を近づけて角度を見ながら、奥まで入り込んでないことを願って手を差し入れる。
「取れそうですか……?」
 心配そうな先生の声が上から聞こえるが、大丈夫、今度は責任持って自分が取ってみせますと心の中で返事をする。
 願いが通じたのかキーホルダーは割りと上の方で引っ掛かっていて、指先が捉えることに成功した。
「やった!取れましたよ先生!」
 安堵と喜びで思わず叫び、頭上で先生が見守っているのも気づかずに勢いよく頭を上げてしまった。
 ゴッ、という鈍い音がしたのと同時に頭頂に鋭い痛みが生じた。
「いってぇ!」
「っ……!」
 それがすぐに牧野先生の顎にぶつけてしまったことだと理解した俺は、慌てて顔をずらしてこわごわ頭を上げる。
 しかし偶然にも、自分が顔をずらした方向に顎を押さえる牧野先生の顔があった。
 コンマ一秒もなかっただろう、ほんの一瞬、俺の口に柔らかなものが触れていった。

「いたた…須田くんごめんなさい、大丈夫でしたか?」
 牧野先生は何事もなかったように顎に手を当てて、ぶつけた痛みを紛らすようにさすっている。
 気づかなかったのか……?
 まさか気のせい…いやまさか。
 僅かだが自分の唇に濡れた感触が残っている。
 本当にしてしまったんだ、牧野先生とキスを―――!

 自覚したら急に緊張やら羞恥やら興奮やらが一斉に襲ってきて、俺はパニックに陥った。
「だだ大丈夫です大丈夫、はい、俺石頭なんであのもう時間も遅いしこれも取れたし………俺っ、帰ります!」
 言い終わると同時に濡れるのも構わず外に飛び出した。
 最後に聞こえた先生の声が、挨拶をしたのか気遣う言葉を言っていたのかは分からないが、無視して出てきてしまった。

 その後、帰りが遅かったことで母親が色々と話しかけてきたり、俺の後に帰ってきた父親に何か言われたりしていたけど、頭には一切入ってこなかった。
 風呂に入りながら俺は無意識に指であの感触をなぞっていた。
 指なんか比べ物にならないくらい柔らかかった。少し湿っていて…何か付けていたのかな……
「うわぁああ…」
 思い出すほど気恥ずかしくなって頭を抱える。
 明日は普通に接することができるだろうか、間違いなく意識はしてしまうだろうな、ポーカーフェイスなんて無理だ…
 まずクラスの連中に不審がられるに違いない、美耶子には何も言わなくても全部バレそうだし宮田先生にもなんやかんや言われそうだ…
 指も唇もふやけてしまうほど長湯したせいで俺はすっかりのぼせてしまった。


 時刻は須田が車を飛び出した直後に巻き戻る―――。

 車内には一陣の風が通り抜けた後のように、いなくなった須田に呆気にとられた牧野が残されていた。
 車用の傘を使ってくださいと言う声も聞こえなかったようだ。
 あの混乱ぶりからするに、唇が触れてしまったことで我を失ってしまったのだろう。
 あんなもの、ただの事故なのに。
 ましてやキスと呼べる代物では到底なかった。
 牧野としては犬に舐められるよりも更に劣る、壁とぶつかった程度の認識でいたのだが、須田の初々しい反応を見ていたら逆にこちらの性欲が刺激されていたようで、身体の変調はないものの、ぞくぞくとした精神の高揚を感じ始めていた。

 薄く開かれた唇の合間から肉感的な舌がぬらりと顔を出す。
 舌は下唇の、先ほど触れたとおぼしき場所を味わうようになぞっていき、たっぷり時間をかけてようやくといった風に唇の端まで到達すると、舐め取った感触を舌と共に口内へと引き込んで、粘膜にじわじわと刷り込んでいく。
 唾液を纏った舌が内側で糸を引き、喉を鳴らした牧野は再び唇をほころばせる。
 光る下唇に指を辿らせ、その濡れた感触を確かめると自然に笑みが零れた。
「ふふ、美味しい」

おまけ

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