虚言の結び6 | ナノ


※エロあり



 てっきりその場で乱暴にされるとばかり思っていた牧野は、一番上の法衣だけを脱がせた後、寝室に案内した宮田の行動の真意が理解できなかった。
 殺風景な部屋には数点の家具と薄い色のシーツが掛かったベッドが置かれており、そこに掛けるよう促される。物を取ってくると言って一人部屋に残されても、牧野はこれから起こる具体的な事象を何ひとつ想像できず、しかし犯されるということだけははっきりしていて、死刑執行を待つ罪人のように、ただ言われた通り待っていた。

「上はいいです、下だけ全部脱いでもらっていいですか」
 そう言って戻ってきた宮田の手の中のものを見て、かっと顔が熱くなる。数分前まで想像できなかったものが、たった一つのボトルの存在で理解できてしまった。
 しかし主導権を明け渡した自分に反対する理由など万に一つも見当たらず、黙ってズボンのベルトに手を掛ける。その際下着を残して最後にそれだけを脱ぐのは何だか女々しく思われて、いっそ早く終わればいいと投げやりになりつつあった牧野は、潔くズボンごと下履きも全て脱ぎ去った。
 こんな辱めはさっさと終わらせるに限る、そしてさっさと忘れるのだ。

 部屋は暖房があらかじめ入れられていたお陰で、シャツを残して全ての肌を晒しても寒さを感じずに済んでいた。宮田の手に導かれるままベッドに体を横たえ、うつ伏せになる。非常に情けない状態が一望できているはずなのに、宮田からはただの一言も嘲りの言葉は聞かれなかった。
 牧野にはそれが行為に甘んじる己への対価ととれた。兄と交わるなど常軌を逸した行為を強要することへの後ろめたさではないのかと思えたのだ。
 牧野にはこの行為自体における宮田のメリットはほとんどないと思われた。もちろん犯される側の精神的苦痛は多大にあるが、同性と関係をもつということは犯す側にも相応のリスクを生じさせるものだ。自分が憎いにしても、身分を利用すれば方法はいくらでもあったはずである。地位も財力もある宮田が敢えて“性交”を選ぶ理由が分からなかった。
 ならばこそ、宮田が本当に苦しんでいて、断腸の思いで懇願してきたのでは、という可能性が捨てきれなかった。
 もしそうならこの行為に最もみじめさを感じているのは他の誰でもない、宮田自身のはずである。自分は宮田に自分の姿を見たショックで動転していたが、宮田がこれまで語ることのない本音を打ち明けたことが真実である可能性については考えたのだろうか。
 もしそれが本当だったら、助けを求める信者を否定する自分こそが求導師として失格だということにならないだろうか。
 これまで求導師としての自分を守るため、全てを犠牲にして村人に尽くしてきたつもりだったが、村人を捨てて自己保身に走るなど、誰も救えないばかりか求導師としての自分も失おうとしているのではないか―――

 考えても考えても、牧野は自分を救う答えを見出せず、感情の袋小路から抜け出せずにいた。その後ろで見下すように宮田は立っている。ズボンを下ろし、自分は局部だけを露出させた格好で、ゆっくりと牧野の体にまたがって言った。
「彼女にはね、挟んでもらうのが良かったんですけど」
「…え……?」
「でも牧野さんは胸なんてありませんから、こちらを使わせていただきましょうか」
「ひっ…!」
 突然、尻の割れ目に沿って粘度の高い生暖かな液体が垂らされた。それが先ほどのボトルに入っていたローションであることはすぐに分かった。隙間なく塗り広げるようにあわいを手指が行き来してぬるつく感触を嫌が応にも意識してしまう。股の内側がしとどになるまで続けられた指戯に牧野は堪えきれない息を荒げ、それを一人ほくそ笑んだ宮田はうつ伏せにした牧野の両の尻たぶをわし掴んだ。
「えっ…!」
 そのまま両手で外側から中心に向かいぐっと力を入れて寄せ上げる。
「ちょっと肉が足りないですけど大分近くていい感じです」
 これから使用するそこの具合を宮田はあえて強調した。村の権力者たる求導師が一介の婦女子ですらしないような、物としての扱いをこれから受けようというのだ。嗜虐心とどす黒い優越感で宮田の興奮は高まった。

 なるほど、それだけで勃つものらしい。熱を溜め込み形を変え始めた己の局部を見下ろして宮田は冷静に考えていた。始める前は勃起する要素のあまりの無さに少々不安を感じていたのだが―――その場合は適当に擦り付けて終わらせようと思っていた、そのための体位でもあったのだ―――いざとなると虐げられる牧野が想像以上に惨めで、しかも当人は現状を正しく理解することもできない愚か者で、これ以上ない興奮と充足感を与えてくれた。自分でも手を加えて半分ほど勃ち上がったところで、いやらしくてかる割れ目の入り口に自身をゆっくり滑らせる。
「っ、ぁ……っ」
 おそらく気持ちが悪いのだろう、牧野は前後する宮田の動作にいちいち反応して細かく震えていた。尻をべたべたに汚されて更には逸物をそこに擦り付けられているのだから当然の反応ともいえる。だがこっちだって気持ち悪いんだ、と宮田は心の中で吐き捨てた。誰が好き好んで自分と同じ顔の、しかも男のケツにこんなことしなきゃならないんだ、わざわざこの方法を選ぶ必要があったのかと、無遠慮に犯す激しい腰の動きと相反する疑問が再来する。
 それでも生理現象とは不可思議で、肉の割れ目を行き来する回数を増やす毎に宮田の陰茎はくっきりと輪郭を際立たせ、今や触れる部分をその形でもって押し退けるほどに硬くなっていた。

 兄の醜態にいとも簡単に勃起してみせるなど、やはり自分は狂っているのかもしれない、コンプレックスで片付けられない性癖を宮田は自認せざるを得なかった。
 ただ狂っているのは己だけではない―――自身を包み込む肉の変化もそれを手伝っている―――それもまた事実であった。
「どうしました?腰、動いてますよ?」
 指摘に体を跳ねさせた相手はそれ以降動かなくなった。
 触れた当初、牧野の皮膚温は明らかに低く、温かな乳房との違いは宮田を苛立たせる程度であったのに、ローションと先走りが割れ目の内部で撹拌され区別がつかなくなる頃には肉全体も確かな熱を持ち、他の器官と比べてもさほど遜色のない一つの性器へと変貌を遂げていた。
 加えて先の腰の動きである。この男は、求導師さまは尻を犯されて感じていたのだ、確実に。
 厳密にはそれが亀頭が時折掠める肛門への刺激なのかベッドに圧迫され続けている陰茎の気持ちよさなのかは分からなかったが、この行為が発端であることは否定しようがない。それさえ分かれば十分だった。
 これからもっと汚してやる―――
 音のない呪詛を吐く口元は凶悪にゆがんだ。
 まだ足りない、もっと、もっと叩き落としてやる―――!
 宮田の中でこれまで封じ込めていた邪心の数々が間欠泉のように噴き出していき、自身でもその様子が見えるようにありありと感じられた。
 燃え上がるような高揚感とは正反対に、行動は至って冷静に牧野を堕とすための次の行動を計算する。乱れた黒髪を掬っては撫で、固まってしまった背中をなだめてやると、おそるおそるこちらを振り返った牧野は自分の変化に愕然としているようで、滑稽だった。自ら腰を動かしていたというのに認められないのか。
「気にしなくていいですよ、そういう性癖の人もいるんじゃないですか?」
 俺は違いますけどね、心の中でうそぶいてからやんわりと続きを促す。脅えさせないように極めて慎重に。
「すみません、こちらも限界なので最後まで……いいですか?」
「は……はい……」

 それからは今までで一番気持ちがいい瞬間だった。自分を見下ろしていた兄をこんなにも貶めたのだ、こんなに無様に。肉体的な快楽と精神的快楽が合わさるとこんなにも満ち足りた気分になるものかと、宮田は愉悦に浸りながら思う存分に兄の体を荒らしまわった。
「ひっ…ひっ…っ…」
 激しく陰茎が出入りする連続した動きに合わせて牧野の口からみっともない喘ぎが零れ出す。両の尻たぶは痛いほどの力で左右から抑えられ、形が分かるという段階を超えてもはや穴を犯されている錯覚を起こさせていた。割れ目から突き出た亀頭が時々尾骨に当たる感覚が、自らも未経験の子宮という空間を連想させ、牧野は羞恥に顔から火を噴く思いで涙をにじませた。
 ふと、背後の宮田の位置から牧野の両手が胸の下に隠れているのが見て取れた。もしかすると祈り手を組んでいるのかもしれない。
 そんなことをしても無駄だ―――!
 神への哀願など打ち消すように、宮田はわざと体重をかけて体をずらすように動かしてやった。突っ伏した上からのしかかられた牧野は逃げ場もなくされるがまま体をベッドに擦りつける羽目になり、摩擦から生まれる性感に触発されたか、徐々に自らも動きに合わせて小刻みに腰を揺らすようになっていった。むき出しの肌に、額から汗がぽとりぽとりと滴り落ち、牧野はそれにすら敏感に感じているようだった。
「ふぅっ……うぁっ…あぁっ…」
 高まりを放つ寸前、牧野の情けない喘ぎだけが不快だったが、上擦ると自分と同じ声とは思えないほど高い声を出すので、目を閉じて女を想像すればいいと言い聞かせていた。割れ目はすっかり形を覚え込まされて宮田のものとして形を成していた。
 ―――これからずっと使ってやるよ、あんたが死にたくなるくらいにな。
 心中でこっそりつぶやくと、宮田は尾骨に亀頭をごりごりと擦りつけた。尿道口を掠める凹凸の感触が子宮口を連想させる、女の膣に射精する一番気持ちが良い瞬間を思い出して、全てを吐きだした。
「あぁ!…ぁあ…っあ……」
 目も当てられないほどぐずついたそこに熱い液体がかけられた瞬間、牧野も一際体を震わせて、荒い息を大量に吐きだした。



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