トルケスタニカ【?花←孔】

※相手は出てこないけど、師匠の片思いです。タイトルは、元となった曲をそのままに。Hi-FiCAMPのトルケスタニカより。






トルケスタニカ



今上帝が一つの国としてこの地を定めた事で、国内の治世はそれぞれの主君の元に急速に整えられていった。
未だ地方では飢饉がおこる地域もあるが、戦のない世になった事で資源はまわり、野党の数も散り散りとなり、ほぼその姿を消した。
街におりれば、煌々と明かりが灯されて活気付いた屋台が並ぶ。
人々が穏やかに生き、餓えに苦しむこともなく安心して明日を迎えられる世界。

真昼間から活気付いた屋台の隅で、孔明はその光を眩しそうに目を細めた。
今日は誰にも会いたくないからと、浅葱色の羽織を着て酔い潰れたその姿を遠目に見て、屋台の前を通りかかった人物がいる。

一度目、通り過ぎ。
少し戻って、確信が持てないのか、二度目も通り過ぎた。しかし、しばらくたってもう一度、三度目の正直とばかりにおずおずと、少女は酔い潰れた主に声をかけた。

「…師匠? もしかして、師匠ですか?」
「…ん〜? …あれ、花?君、なんでこんなトコいるの…」
呂律の周り切らない口で、ぼんやりと夢見心地に見上げると、心配そうに覗き込む花の姿があった。

「…あー、夢か…」

そうか、夢か。そうに違いない。嫁いでしまう弟子が、こんな所にいる訳がないのだから。
そう一人で納得すると、孔明は酒を口に運んだ。

「師匠、ちょっと…いえ、かなり酔ってます、よね」
「んー…?…うん、そう、だね」
「わ、師匠!ちょっと、お酒溢れちゃってますよ!」

びちゃびちゃびちゃ。
口に運んだと思った盃は、口元より随分前で傾けていたらしい。
胸元から染み入る様に染み渡る酒を、慌てて花が手持ちの布で拭き取った。
(……いいにおい…)
すっかり語彙の失われた頭で、胸元を拭う距離にいる弟子に口元が緩む。
ぼんやりとした頭のまま、空の盃を置いた手を、彼女の耳にあてると、びくりと肩がはねあがる。

「ちょ、師匠…!」
「んー? ……花、なんか反応、変わったねぇ…」

前はこんな風に触っても、きょとんとした顔をしていたのに。
だというのに、今の花は違った。
(……君はもう、知ってしまったのだろうか。男が触れるという事の、意味を)
触った耳は朱に染まり、目元を潤ませて伏せた。
まるで触れられるという事の意図を、知っているーー女性であるように。

「……!!そ、そんな事ない、です。師匠こそ、…飲みすぎですよ、ちょっと、なんか、変です」
「そうかな〜?…僕は、はじめから何も変わってないけど」

変わったとしたら、君の方だよ。と、孔明は少しだけ眉をひそめて、彼女に触れた男を思った。

ふい、とそらされた顔とともに、その体を引いた花の手を思わず掴んだ。
身を引こうとする花に、これは自分の都合のいい夢なのだと思った孔明は、そのままその手を離さない。
(離したら、夢は終わってしまう…)
文官ではあるが、これでも他方を巡って旅をしていた自分の腕力は花よりもある。
戸惑うように、酔い潰れの師を心配そうに見る花の顔は、やはり自分の知っている少女なのに、少し違う。
(ねぇ、花。僕はもう、君にさよならを言わなくていいんだよね?)
君が誰を選んだっていい。
ただ、この世界の理の中にいてくれれば、それだけで。
(…あの人を想う、君を想い続ける事を、許してね)
手に入らない人がいた。
この世界のどこにもいない、大切な人だった。
(どこにも、行かないで。…もしいなくなっても、僕はまた貴方を追いかけるから)
夢だと思うと、覚めないようにと握る手を離せなかった。

「……おめでとう、すごく、綺麗だった」

それだけ言うと、少女はじわりと目に涙を浮かべ、微笑んだ。
その幸せそうな顔が、ずっと見たかった。


孔明はふにゃりと幸せそうに微笑んだ。

「たくさん、幸せになるんだよ、(僕の)…花」

ほんの少しだけ、心の中で言えない言葉を混ぜて祝辞を贈る。
顔を真っ赤に染めて頷く少女。
嗚呼、君がこの世界で幸せそうに笑ってくれる。



それがどんなに、幸せな事かなんて。



(…君には、解らないよ)







トルケスタニカっていう曲を聴きつつ…師匠は花ちゃんが誰と幸せになっても、彼女を好きだと思うのです…。
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