夢の一部/マルリモ/謎

「私ができるのも、もうここまで、ね」


アンジェリークの長く伸びた髪が、さらさらと音を立てて彼女の肩をすべり、ベッドのうえに落ちる。
何年、何百年、ここで過ごしてきたか、もう思い出せないな、と彼女は思った。
補佐官さえ、力を失いこの地からおりたったのも記憶の中に懐かしい。

「ふふ、守護聖の方々も、残っていらっしゃらないくらいだもん。・・・とても、長かったんだわ」

自嘲するような声色で、アンジェリークはベッドのうえに横たわる。
彼女じしんも、まさかこんなにも永くの間、この力が溢れると思っていなかった。
補佐官や、見知った守護聖の人々の心配そうな顔が忘れられない。

地に降り立つ元女王には、もう誰も知った人なんていないだろう。


アンジェリークはそのまま、主星での最後の夜に眠りにおちた。





「リモージュ様、こちらがご用意させて頂きました御殿になります。使いの者もご所望であればご用意しておりますので、何かございましたらこちらにご連絡くださいませ」

うやうやしく礼をして、使いの使者が部屋の鍵と、携帯電話を残して部屋を出るのを、アンジェリークはぼんやりとして見ていた。

前代の女王も、地に降りたあとここを使ったらしいその宮殿は、一部を残しほとんどの敷地を森や湖にかえたらしい。
住む家としては、一人には広すぎるが、宮殿よりはずっと、すごしやすい。
しばらくぼんやりと、窓の外を眺めていた彼女は、部屋を見回した。
誰もいない朝日の入る静かな部屋。

机の上に置かれた古ぼけた手紙に気づき、アンジェリークの頬から涙がおちた。
ロザリアからの、手紙。
彼女もまた、ここで、私を待ってくれていたのだ。
最後の、最後まで。
机の上には、他の見知った名前もある。
違う宇宙からの手紙も。
ひとつひとつを読むうちに、彼女の眼は真っ赤になり、突然寂しさにうもれる。
窓から入る陽が傾き、水音で彼女はようやっと窓の外の景色をみた。

「・・・森の、湖みたい」

あの、森の。
部屋の中には自分しかいない。

お付きのものも、補佐官も、守護聖も。
薄い夜着一枚になり、彼女は長く伸びた髪を結んでいたリボンをほどき、濡れるのもかまわず湖に足を浸した。

冷たい水で顔を濡らす。
涙なのか、湖の水なのか。彼女の肩は震えながら嗚咽が響く。

カサッ


草を踏む音に、アンジェリークの肩がふるえる。

「だ、だれ?」

振り返った先には、美しい金の髪をした、男性がいた。
自分しかいないと思っていたアンジェリークは、濡れた夜着で体を隠し、震えながら彼をみあげる。

「・・・ほんとに、アンジェリーク?」

「えっ・・・?はい、えっと、」

男が、きょとんとした顔で見てくるので、思わずアンジェリークの口からもほうけた声がでてしまう。

「・・・アンジェ!久しぶり!僕だよ」

ぎゅうっと抱きしめられ、アンジェリークの顔は真っ赤になり、パニックになる。

「あ、あなた、だ。だれ・・・ちょっと」

ぐいっと今度は顔を近寄せられ、頬にキスされる。ぽかんと見上げた瞳をみて、アンジェリークの頭にパッとスミレ色の瞳がうつった。

「会いたかった。・・・こんなに綺麗になってるから、驚いた」

年の頃は28歳くらいだろうか。
短髪で。綺麗な金色の髪に、スミレ色の瞳。
すらりと伸びた身長に、優しい笑顔。

「ま、マルセル・・・さま?」

「君に様呼びされるなんて、なんだか変な感じだけど・・・マルセルって、呼んでよ。アンジェ」


「マルセル・・・」

突然知らない人に、会ったような感覚にさせられたが、やはり微笑みはかわらない。
私の歳はかわらないので、いつの間にか一回りも私の歳を追い越したマルセルが、そこにいた。

「ど、どうして、ここに?」

「君がいつ来ても大丈夫なように、・・・みんなも、ずっとここに、通ってきてたんだよ。いまは、僕だけだけど・・・でも、ずっと君を待ってたんだ」

今はもう、僕だけ。
アンジェリークの瞳から、大粒の涙があふれる。
きゅっと、アンジェリークの方からマルセルに抱きつくと、マルセルの頬が薄く染まり、そうっと彼女を抱きしめる。

「・・・ねぇ、アンジェ。僕ね、君にずっと言いたいことがあったんだ」

でも、まず先に。
みんなの事を話したいな。
微笑むアンジェリークに、マルセルは部屋の中を指差し、暖かい場所へと彼女を連れて行く。

「僕だけじゃない、これはみんな言いたかったけど、前の僕たちには、君には言えなかった・・・。
時間を巡って、今の僕たちの関係なら、自信を持って言える」

目を伏せて、マルセルはアンジェリークの前に跪き、こう伝えた。

「君を、幸せにしたいんだ。僕のそばにいて、もう二度と君が悲しむ事がないように、護りたい。楽しい事も、ずっと、君と見つけていきたい。ずっと、僕のそばにいてくれる?」

いなくなった人たちの、言葉。
みんなに愛されたアンジェリーク。
ずっと、僕の好きだった人。
色々な気持ちを込めた誓いの言葉に、アンジェリークが微笑む。

「私も、ずっと・・・貴方に会いたかったの。貴方に会えた事で、みんなにも会えた。・・・そんな気がするの」

部屋に飾られたみんなの写真が、2人を見守る。
部屋を暖めた暖炉の温もりを感じながら、2人は長いキスを交わした。

「森の湖で、マルセルが来た時に、驚いたのはね」







女王決定の前夜に、貴方に伝えたかった言葉があったからなのよ。





終わり


ダンディマルセル・・・見たいなぁ
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