30日前/アンジェ/微暗

学校には、少し遅れていく。

「雨、やまないなぁ‥」

スモルニィ女学院の図書室は、エアコンがきいていない(節制の為らしいけれど、きっと節約だと思う)ので、夕陽が陰ると肌寒い。

腕時計は18時を過ぎた頃。
学校の中にはほとんど人は居なくなった。

「‥もう、帰っても平気かな‥」

ーーここの所、アンジェリークは学校が憂鬱で仕方なかった。
女王試験に自分が、選ばれた事を学院長から伝えられた後の、聖地に向かうまでの一か月。
急に友達がよそよそしくなったり、全く知らないはじめましてのお友達が勝手にできていたり。

ーーー誰も。
引き止めて、くれない
名誉あることだからっ、て。

夜の帳がゆっくりと満ちてくる。
もう帰らなくては‥そう思いながら、帰り支度を始める手は中々最後までしゃっきりとしてくれない。


「‥はやく、迎えに来るなら来てくれないかな」

選ばれたことは、はじめは嬉しかった。
パパやママにも、褒められたし。
ずっと従姉妹ばかり可愛がっていた祖母も、自分に甘くなった。
先生だって、友達だって、‥なんだか、それが急に寂しくなった。

「ルルだけは、変わんないけど」

老犬のルル。
いつも夜は一緒に寝て、お休みの日には遠出して散歩。高校に入ってから、部活や試験であまりかまってあげれていなかったけど、帰宅したらいつも尻尾を振って喜んでくれる。
ルルだけは、変わらない。


「‥もう、かえろっと。うん、ルルも、まってるもん」

また家に帰ったら、旅立ちの前の豪華な食事と贅沢なワガママを聞いてもらえて、ルルがいつものように尻尾をふって駆け寄ってくる。
私を名誉とか、そんな言葉で縛らない。


「聖地‥って、どんなとこ、なんだろう」

ぽつりと呟いた言葉に、ほんの少し恐ろしさも、感じる。
まだ知らない世界は、少女にとっては、少しばかり恐ろしいものでもあった。
だって、誰も知らない。
どこも、知らない。


そこには、自分の場所があるんだろうか?

例えば聖地を描いた絵画のように、緑や花や、綺麗な丘があって、人々も沢山いるんだろうか?
ーーー新しい出会いも、あるんだろうか?

空にはいつの間にか、金星がキラキラときらめいている。
アンジェリークは聖地への招待状を鞄から取り出し、胸の前でそっと押し込めた。

あったかい、光が体を包む。



これはアンジェリークが聖地への招待状を持って飛び立つ、一か月前のお話。










○○

ロザリアと違って、普通科の彼女はこんなこともあったんじゃないかという妄想。
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