メーキングメモリーズ | ナノ


06  




春光

"ヤット 戻ッテ来テ クレタ....."
(ん?)

どこからかき終える女ノ子の声、視線を泳がす。
(あれ...)
目の前で囁かれたように感じた感覚。
だが、この部屋には俺と百合男の2人。
目の前どころか、どこにもいない。

"早ク 早ク出シテ..... ヴァーナル"

耳に吹きかかる空気に総毛立つ。

「なぁ、百合男.......」
耳がこそばゆい。
「ここって、女の子とか.....いる?」
「ん、あぁ......いるよ」
だれを思い浮かべているかは知らないが、その子なのか。

"暗クテ 狭イ..... 早ク出シテ?"

「その子って、狭くて暗い所にいんの?」
「え?」

"ヴァーナル ガ イツモ 使ッテタ 机"

「ヴァーナルが、いつも使ってた机?」
「どうかした?」

大丈夫か、と俺の顔前で手をチラつかす。

「俺がここに居たときに使ってた部屋ってどこ?」

いつも使っていたのなら、当然、それは自分の物だったのだろう。
自分の物を他人の部屋に置くなんて事は普通しない。

「いや、ここだけど」
「あ......そうなんだ」

そもそもだ、机に人なんて入るのか?
入らないだろう。
じゃぁ、なんだ?

"ソコ! ソコノ 引キ出シの 中!」

いや、はいらんだろう。
俺の行動に気味悪がる百合男。

この部屋にある机と言ったら、この机兼チェスト。
ベッド横に置かれたチェストを覗き込む。

「どの引き出しだよ.....」
上から順に引き戸を開ける。
1段目、2段目......3段目。

"ソレー!!"
「痛っ?!」
急に頭に痛みが走る。
耳の奥がビリビリするみたいな....。

「.....日記、帳?」
開かれたそこには、深い緑に染められた1冊の本。

"有難ウ 見ツケテクレテ。
 コレデ 私ノ 役目ハ 終ワリ"
「え?役目って何」
しげしげと日記を読み始める百合男を無視し、俺は女の子と会話する。

"ヴァーナル ガ 再ビ戻ッテ来タ時ニ コノ日記ヲ渡ス コト。
 コノ日記ハ ヴァーナル ノ記憶。
 ココニ拾ワレタ時カラ ズット書キ続ケタ日記"

「中見ないのー?」
百合男の声にハッとする。
読み終えたのだろう彼は、バラバラと無意味に捲る。

はらり、はらり。
何故か捲る手は震え、心臓が苦しい。

あぁ、......あぁ。

その震えは確信に近づいた。



「思い出した、ライラ」

彼の顔が、綻んだ。


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