小説 | ナノ

3.罠に掛かった獲物は… [ 21/21 ]


「わたし、ですか?」
 唖然呆然とはこのことを云うのかと、頭の片隅で私はどこか冷静に判断していた。
「ルル様を愛しているんです。敵国の――身分も違う私が、貴女を想うなど痴がましいことだとは存じております。でも、この気持ちを偽ることなんて出来ない。今だけで構いません。このまま……」
 強く抱きしめられながら、私は頭を切り替えフル回転させる。よく考えてみてほしい。
 私の周りの男と言えば、ヘタレか変態かマッドかドSと言った一癖も二癖もある云わば『人間としてどうなの?』といいたくなるような者ばかりだ。
 適齢期を迎え、いざ優良物件を探すも身分が釣り合わなかったり腹に一物もニ物も抱え込んでいたりと上手くいかない。
 しかしだ。目の前の彼は、それらを払拭するだけの材料が揃っている。マルクトでも皇族に次ぐ有数の貴族だ。
 敵国とはいえ、共通の目的があるためか近年は比較的に友好関係が築かれている。
 今、ここで逃せば行き遅れ決定な気がする。これ以上とない優良物件をみすみす逃すなんて馬鹿だ。
 例え、私が好きだと聊か趣味が悪いなと思わなくも無いが。
「……嬉しい。私もフリングス少将をお慕いしています」
 アスランの背中に腕を回し、少し背伸びして彼の唇を奪う。まさかキスされるとは思わなかったのか、目を大きく見開き固まっている。
「フリングス少将がお嫌でなければ、キムラスカに来て居ただけませんか? そして私の隣に立って支えて頂きたいのです」
「はい、死が分かつまで最期まで私はルル様のお傍にいます」
 嫁に来てくれと逆プロポーズをしてみたら、満面の笑みを浮かべて二つ返事で了承してくれた。
「ありがとう御座います」
 アスランの腕に抱かれながら、私は今後起こりうるであろう弊害を頭に浮かべつつ、どう片付けていこうか算段を立てる。
「……手始めに既成事実を作るのが一番手っ取り早いな」
「何か仰られましたか?」
 不穏な独り言は、あまりにも小さ過ぎたせいでアスランは聞き逃していた。
「全てが片付くまで待てません。早く一緒になりたいです」
「……ルル様は、せっかちですね」
「だって誰にも平等に優しいんですもの」
「私の心も身体もこの後に続く生涯も全てルル様に差上げます」
 顔を真っ赤にして嬉しそうに笑う姿に、私は数少ない良心がチクチクと痛んだのは気のせいだと思いたい。
 こうしてアスラン・フリングスをマルクトから強奪することに成功したのだった。


――が、目障りなお邪魔虫’Sが、盛大に邪魔をしたせいで結婚は延び延びになってしまったのは言うまでもなかった。
end

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