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6.シンクを拉致ってみた [ 13/21 ]


 無能眼鏡一行が寄り道をしている間、私は次の手を打つことにした。
 アクゼリュスが落ちた今、キムラスカが攻め込んできてもパッセージリングを地殻へ下ろさない限りは、アクゼリュスの二の舞となり兵諸共一緒に崩落してお陀仏になるから安心しろと言い放った際に、ピオニー以下省略が物凄ーく微妙な顔をして私を見ていたことを記しておこう。
 セントビナーに関しては、既にピオニーの名前で勅命を下させ退避済みだ。マクガヴァン将軍が、中々素直にうんと頷いてくれなかったので鉄拳制裁を下し気絶したのは記憶に新しい。
 ルー君としては世界を救いたいと思っているようだが、二週目を強要された私としては世界なんてぶっちゃけどうでも良かったりする。
「ティア、次どーすんだ?」
「髭一味の指名手配と同時に惑星滅亡の秘預言を発信して、各国の協力を得ないと話にならないわ」
 外郭大地の降下に、ヴァン一味の討伐、それからローレライ解放と瘴気中和……考えただけで頭が痛くなりそうだ。
「でも、イオンはジェイドのところにいるぜ」
 肝心の導師が居なければ彼の名前で声明が出せないことをルー君は器具しているようだ。
「あいつが居なくても、シンクを捕まえりゃあ何とかなるだろう」
「大人しく言うことを聞いてくれると手間が省けるんだけど」
「デレのないツンだし無理だろうな。かくなる上は、力ずくで従わせれば良いじゃん」
とルーク談。いつの間にか腹の中まで真っ黒くろすけになった模様でちょっぴり涙が出そうになった。
 私達は、ケセドニアに向かい漆黒の翼と司法取引(と言う名のを恐喝)をしてシンクの居場所を突き止めたのだった。


 ケセドニアの宿の一角で、甲羅縛りにされたシンクがムォォオーフォォーと呻いている。
 彼を囲むのはお馴染みになりつつある、私とルーク。そして新たに加わったルー君の三名だ。
「私の顔を見た瞬間逃げるなんて本当失礼な2歳児ね」
「……」
「いや、誰だって逃げたくなると思うぞ」
 満面に黒い笑みを貼り付け、詠唱を大幅短縮させて出会い頭にインディグレイションを放ったら、そりゃ誰だって逃げたくなるだろうとルー君は思った。
 思ったが、命は惜しいので口に出さない辺り無能軍人達との旅は意外なところで役に立った瞬間だった。
 ルークの方は、ズバッと突っ込みを入れては頭を叩かれている。ある種彼らの中でのコミュニケーションの一つなのだろうが、痛そうな音がするのは気のせいではないだろう。
「さてと……シンクに聞くわ。ヴァンを捨てて私に協力しない?」
 当の本人は、口に布が噛まされており喋れる状態ではない。喋れなくても身振り手振りで示せるだろうと言い放てば、更に呻き声が酷くなった。
「これじゃあ、何言っているか分からないわね」
 シンクの猿轡を解くようルークに視線だけで指示を出すと、彼はイソイソと布を取り払った。
「冗談じゃないよっ!! 何であんたなんかに協力しなくちゃならないんだ。大体人を誘拐しておいて協力しろ? ふざけんな!!」
 ノンストップのマシンガントークに、ルー君は暢気にパチパチと手を叩いている。
「答えにNoはいらないの。私が、欲しいのはYESだけよ」
「嫌に決まってんだろう」
「じゃあ、サクッと逝ってらっしゃい」
 音素を練りながら何十倍もの殺気を放ちながら棍を振り上げる私に、本気で殺されると危機を察知したシンクは、焦った様子で協力を要請する理由を聞いてきた。
「僕が協力しなくても、あんたの実力でならヴァンを殺れるだろう!」
「ヴァンなんてどうでも良いわよ。私はね、ローレライをフルボッコにしたいの。寧ろ抹消したい。世界を救う旅なんてご大層なものを押付けやがって、必死こいて解放までしてやったのにあの毒電波……私の引きこもり生活を台無しにしたのよ!! この恨み晴らさずにいられるかっ。マジ殺す」
 ミシミシと嫌な音を立てる棍は、聊か皹や歪みが出来ている。言っている大半は、ローレライに対する恨み辛み総じて愚痴という締まらないオチにシンクは顔を引きつらせていた。
 一緒に飛ばされてきたルークは、苦笑いを浮かべながらポムとシンクの肩を叩いて言った。
「ここでティアに消されるか、ローレライ解放に付き合うかどっちが良い? ちなみに後者なら、ティアの私兵っつーことで給料出るぞ」
 頷かなければ死が大きな口を開けて待っており、頷けば波乱万丈な第二の人生の幕が強制的に上がってしまう。
 どっちに転んでも不幸には変わりないとシンクは思った。
「さあ、どうする?」
 究極の選択を迫られたシンクは、後にこう語った。『あのまま音素帯に登ってれば、こんな面倒なことに巻き込まれなくてすんだのかもしれない』と。

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