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30.アフターケアは大切です [ 31/72 ]


 軍基地に足を踏み入れたら、なにやら興奮した様子のルークが目をキラッキラさせて私の名前を呼んだ。
「すっげーな!! あれ、どうやったんだ?」
 一応、マルクトの名代とカイツール軍港の責任官が居る前でその態度はないだろう。
「ルーク様、言葉遣いが乱れてますよ」
「うっ……分かってる」
 そう指摘するとバツ悪そうに頭を掻くルークに、私は小さく溜息を吐いた。これは、バチカルに戻る前に王族の心構えetcを叩き込む必要がありそうだ。
 ルークの態度が気安すぎるきらいがあるから、あの非常識眼鏡や娼婦紛いな導師守役が付け上がるのだ。
「巨大譜陣を作り出し、彼らに術の発動をして貰いました。力を分散させた為、通常よりも効果は低いでしょうが応急にはなっていると思います。後は、グミやライフボトルで様子を見て下さい」
 道具袋から取り出したグミとライフボトルの料に、アルマンダインの目が点になっている。
「こんなにも? 良いのですか?」
「構いません。人の命に変えられませんから」
 ライフボトルが入った箱が、13ダースある。グミに至っては、数えるのも億劫になるくらい山盛りだ。それも効果なミラクルグミも混じっている。
「ティア、お前また無駄遣いしたな!! 目を離した隙にこんなに買い込んでたのか!」
「ルーク様が怪我しないためにも、万が一の時に備えての装備です」
「俺一人分じゃねーだろう。この量は!」
「無いより有った方が良いじゃないですか」
 キャンキャンと吼えるルークをシレッとあしらっていると、シンクが米神を押さえて唸っていた。
「アホだ。アホがここにいる……」
「シンク、失礼なこと言わないで頂戴! 備えあって憂いなしって言うでしょう。現に役立ったんだから良いじゃない」
 確かに役には立ったであろうが、立ち方にアルマンダインは聊か複雑な気持ちにならざる得なかった。
「ルーク様の為に用意されたものなら尚更頂くわけには参りません」
「大丈夫です。それは、予備ですから。ルーク様の分は確保してます」
と断言するれば、ルークから地の這うような声で名前を呼ばれた。
「ティーアー」
「いやん、ルーク様お顔がアッシュみたく可愛くなくなってますよ」
 眉間の皺をグリグリしながら茶化してみると猫パンチを食らってしまった。
「そういう問題じゃねーだろう! 無駄遣いすんなって言ってんだろうがぁああっ!」
「必需品です。無駄遣いじゃありません。それに半分以上は、貢物ですよ」
 誰からとは言わずニッコリと笑みを浮かべて返せば、ルークは言っても無駄と判断したのかガックリと肩を大きく落とした。
「それよりも、鮮血のアッシュ捕縛が最優先事項です。コーラル城を救援拠点とするには、彼が邪魔ですし何より存在自体が危険です」
「それならば、一師団出そう」
「丁度良かったです。救助隊の三分の一をコーラル城へ向かって貰い魔物退治する予定でしたから。アッシュ討伐の序に魔物退治しちゃいましょう。ダアトには、抗議文と併せてカイツール襲撃で破損した物や負傷した方たちの慰謝料・賠償金・その他諸々を請求すれば良いんじゃないでしょうか。尤も支払い能力があるとは思えませんが、それに変わる物なら色々ありますし」
 ぶんどっちまえと暗に示唆すれば、アルマンダインは良い笑顔を浮かべている。分かりやすいおっさんだ。
 反対に、シンクとルークとフリングスの顔色が何やら悪い。別に彼らから金品を巻き上げようとは思っていないのに、何でそんなに怯える必要があるのだろう。
「……本当にえげつない女だよね。ヴァンより性格悪いよ」
「シンク、何か言ったかしら?」
 にーっこりと笑みを浮かべて問い詰めると、シンクはブンブンと首を横に振り沈黙した。
 全くこのツンデレ2歳児にも正しい教育が必要だなと思いながら、私はコーラル城で待っている赤鶏をどう料理してやろうかと考えていたのだった。

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