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29.カイツール襲撃事件 [ 30/72 ]


 一夜明けて、カイツール軍港に向かったら咽返る血臭に顔が歪んだ。
「これは……」
 明らかに何者かに襲われた形跡がある。アルマンダインのところに行っている場合ではないと判断した私は、軽傷の兵士を捕まえて現状を聞くことにした。
「一体何がありました」
「いきなり神託の盾騎士団の連中が襲い掛かってきてこの有様だ。鮮血のアッシュとか言う奴が、整備隊長を人質に取りルーク様をコーラル城に来くるようにと言っていた」
 流石にこの所業は、預言べったりなキムラスカといえど見過ごすことは出来ない事件だろう。
「ティア、コーラル城に行こう!」
「駄目です!! 貴方を危険な場所へ行かせるわけにはいきません。それよりも先に、彼らを助ける方が先決です! フリングス少将、第七譜術士はどれくらいいますか?」
「今、私と同行しているのは十人ですが……」
 希少ともいえる第七譜術士が、今は私を含めて十一名。正直、キムラスカ側は負傷している可能性が大なので期待できない。状況は最悪、手持ちのライフボトルで足りないかもしれない。
「ティア……」
 縋るような目で私を見るルークに、私は一つの名案が浮かんだ。
「フリングス少将、第七譜術士十名を私に貸して頂けませんか?」
「分かりました」
 アスランは、躊躇うことなく私に十名の第七譜術士を貸し出しを許可してくれた。
 私は、ルークの護衛をアスランとシンクに任せ第七譜術士達を引き連れ被害の多い港へと向かった。


 息が辛うじてあるものの、動かすには危険な状態の人間が何人も転がっている。
 現状を目の当たりにして、目を覆いたくなるのを我慢し私は指示を出した。
「今から全TPを使って広範囲でハートレスサークルの譜陣を作ります。貴方がたは、それを利用して一つの巨大ハートサークルを発動させて下さい」
 まさかそんなことを言われるとは思っても見なかったのか、目が点になっている。
 私からしたら同じ魔法を同時で使えば、かなり強力かつ広範囲で作用すると思っている。
 実際、ゲームでも戦争イベントで魔法攻撃をする時は大抵そうだった。
「でも、そんなこと出来るんですか?」
「やりなさい! やって駄目なら別の方法を考えます」
 私は、自分のTPを棍に注ぎながら地面に打ち付ける。ハートレスサークルの譜陣が浮かび、徐々にそれを拡大していく。
 ぶっちゃけキツイこの作業に、時間が経つと共にガリガリとTPもHPも削られる。
「皆さん、詠唱を!」
『命を照らす光よ、ここに来たれ、ハートレスサークル!』
 巨大な譜陣が光り輝きカイツール軍港の上に降り注いだ。流石、譜術大国マルクトだけあって初めてというのに発動までさせるとは恐れ入る。
「取敢えず、これで応急は出来たはず。後は、グミとボトルで何とか凌げるでしょう。ルーク様たちのところへ戻りましょう」
 魔法を連発して使うのは、術者にとっても負傷者にとっても危険だ。私は、重たい身体を引きずってルークが待つキムラスカ軍基地へと向かった。 

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