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20.口裏あわせ? いえいえ作戦会議です。 [ 21/72 ]


 私達は、第五師団が所有する軍艦ラクシュミーの貴賓室にいた。
 グリフォンに無理矢理連れてこられたシンクは悪鬼を思わせる不機嫌な顔を浮かべていた。
「導師の次は、この僕を誘拐? マルクトは、ダアトと戦争がしたいわけ? 只でさえ、忙しいってのに……」
 シンクの多忙を誘発させたのは、ファブレ襲撃事件と公爵子息誘拐事件が絡んでいるからだろう。
 それに加え、イオンの出奔と先走った色物六神将達が引き起こしたタルタロス襲撃事件。さぞ、ダアトでは抗議文が殺到し教団員はてんてこ舞いだろう。
 潰れろダアトが心情な私としては同情はするが良心は痛まない。
「誘拐とは、随分と人聞きの悪いことを仰るのですね。シンク詠師、お言葉ですが六神将がタルタロスを襲撃した経緯の説明を怠ればローレライ教団は滅びますが宜しいのですか」
「は? そっちが先に導師を誘拐したんじゃないか。 大体あんた誰だよ」
 言葉遣いがなってないと叱るべきなのか。二歳児で教団幹部に就任していること自体おかしな話だが、外交員がこれでは話にならないと思うのは私だけだろうか。
「だからと言って、軍艦を襲撃して言いという理由はありません。フリングス少将、ダアトから導師誘拐についてマルクトに抗議はありましたか?」
「いえ、ありませんが……」
「でしょうね。抗議されても『預言に詠まれていない』の一点張りでごり押しするでしょうし」
 何とも形容しがたい表情を浮かべ変なところで言葉を切るフリングスの考えていることが、手に取るように分かった。
「抗議した上で相手が強固な態度を取った場合、然るべき処置として襲撃するのであれば筋は通りますが、講義もなく襲撃とは……。いつの間に過激派なカルト集団に成り下がったのでしょうか? キムラスカ次期国王のルーク様に向かって愚かにも刃を向けた輩がいましたし、マルクトと手を組んで教団を解体しても構わないと仰るのならお好きにどうぞ。尤も、ヴァン諸共見知らぬ場所で闇に葬り去られても自業自得でしょうね」
 闇討ち上等とばかりに殺気混じりの微笑みに、お子様2歳児は盛大に顔を引きつらせ青ざめている。
「ティア、シンクを苛めるなよ」
「苛めてません。いびってるだけです」
 シンクを庇うルークに、私は胸を張って堂々と小姑の如く嫁いびりならぬヴァンの小姓いびりをしているのだと宣えば怒られた。
「最悪だな、オイ!」
「これを機に糞の役にも立たないローレライ教団など潰れてしまえば最高なんですけどねぇ」
「潰したいのに、何で僕をここに連れて来たわけ?」
 理解しがたいと言わんばかりのシンクに問い掛けられたので、分かりやすく完結に経緯を述べるとシンクだけでなくアスランまで私を凝視していた。
「ルーク様を守る為に取引しましたから。不運なことに私達は『不法侵入』を大義名分で無能軍人に捕えられ、和平強要を拒否したことでタルタロスに軟禁。そんな中、教団から皆殺し命令を受けた神託の盾騎士がタルタロスを襲撃。最悪ですね。私一人ではルーク様を守りきる自信がなかったので、アリエッタ詠師にお友達と襲撃事態をうやむやにする代わりに撤退を要求したんです」
「ハァ!? 何それ、全部そこのお坊ちゃまの為なわけ?」
「マルクトとしては、襲撃をなかったことにするわけにはいきません」
 厳しい表情を浮かべるアスランに、私は肩を竦めて言った。
「ですが、なかったことにしなければマルクト軍は誘拐集団と思われますよ」
「……どういう意味でしょうか?」
「カーティス大佐は、ダアトで暴動の先導をし導師イオンを連れ出した。例え彼自身任意同行であったとしても、教団の許可なく連れ出すことは誘拐となんら変わらないと申し上げているのです。神託の盾騎士は存じませんが、マルクト兵は死者が少なく済んで不幸中の幸いと言ったところでしょうか」
 お互い薮を突いて蛇を出したくないのか、無言になって黙っている。そして、どちらもキムラスカに対して頭が上がらない現実に苦悩していることだろう。
「……ねえ、もしかしてアンタがあの時マルクト兵を動かしてたの?」
 シンクは、何やら思い至ったらしく苦々しげに私を睨んでいた。
「マルクトの軍人じゃありませんので命令なんて出来ません」
 勘が鋭くて困る。無能軍人の下で動いたら死ぬのは分かりきっていたので、ルークの名の下に好き勝手やった覚えはあるが口には出さないでおく。
「タルタロスの機関部を押さえるのは容易かったのに、その直ぐ後でマルクト兵の動きが見違えるほど良くなり抵抗が激しかったと聞いている。アンタが何らかの策を講じて、そこのお坊ちゃんに命令するように仕向けたんじゃないのか」
「おお、すげぇなシンク。ほぼ当たってる」
 パチパチと暢気に拍手しているルークに、私は顔を引きつらせた。
「キムラスカに短時間で策を組み立てられるような奴が居るなんて聞いたことない」
 策ってほどではないのだけれど、そろそろ私が何者なのかハッキリさせておくべきなのかもしれない。
「ティアは、キムラスカ人じゃねーぞ。ダアトの人間だし」
「私の名前は、神託の盾騎士団モース大詠師が旗本情報部第一小隊所属ティア・グランツ響長であります。ファブレ襲撃および公爵子息誘拐で、今をときめく大罪人です。バチカル着いたら、髭諸共死刑台へ直行予定ですね」
 キラリといい笑顔を浮かべて自己紹介をしたら、衝撃の事実に顎を外したシンクが見ものだった。
「う、嘘だろう……」
 ショックの四文字を背負い床に両手を着いて項垂れる姿は滑稽だなと思っていたら、うわっとルークの悲鳴に意識を戻された。
「どうしましたか、ルーク様」
「こいつ、しょんべんしやがった!!」
 フードからポタポタと落ちる金色の水ことオシッコに、私はうわぉっとわざとらしく驚嘆する。
「まあまあ、赤ちゃんですから仕方ありませんよ。ルーク様、着替えましょう。フリングス少将、済みませんがシャワー借りて良いですか?」
「構いませんよ。それは、こちらで片しておきますのでシャワーを浴びてきて下さい」
 流石、出来る男! 無能大佐より何倍もいい男だ。好みではないけど。
 オシッコを漏らした仔ライガをルークのフードから出し、しょんべん塗れのコートを脱がすと私もルークの後に付いて貴賓室を出たのだった。

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