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14.和平強要と軟禁事件 [ 15/72 ]


 タルタロスで食料を漁り、兵士をからかいながら時間を潰した私達だったが、いい加減待ちくたびれたのか日も暮れた頃にジェイドが答えを催促しに来た。
「そろそろ返事を聞かせて頂きたいのですが?」
「決心したらそこの彼に告げるように仰ったのはカーティス大佐ですよね。返事を催促するしに来るとは、流石常識とかけ離れていらっしゃる」
 うふふと花も綻ぶような笑みを浮かべ毒を吐いてやれば、奴はずり落ちてもいない眼鏡を押し上げていた。
「……時間の猶予があまりありませんので」
「決心がつかないから返事が出せないとは考えませんでしたか。(貴方の頭に)残念です。ルーク様、どうされますか?」
「詳しい話を聞いた上でないと判断出来ないな」
 そりゃそうだ。通常なら外交官が窓口となり、謁見の手続きやら何やらを手配するものである。
 和平を申込むのならば、相手に敬意を払うのは勿論、対等でなくてはならない。にも関わらず、ダアトのトップがマルクト側についているのもおかしいし、マルクトは調子こいて上から目線で和平を強要している。マジ最悪だの一言に尽きるだろう。
「あれだけ時間があったのに決心できないとは……」
 ジェイドは私達を小馬鹿に見下ろしているが、その行為が和平を危うくするだけでなく戦争の発端になりかねないことをいい加減理解するべきである。
「ルーク様、カーティス大佐はどうやら人語が理解できないようです。タルタロスを(力づくで)下車した方が良いかと」
「そうだな。話す気もないみたいだしな」
 さて降りるかと、腰を上げた私達に流石に焦りを覚えたのがジェイドが待ったを掛ける。
「待って下さい。分かりました。話しますから」
「なら、最初から話して下されば無駄な時間を過ごすことはありませんでした」
 私の嫌味は、痛恨の一撃を喰らわせることが出来たようでジェイドは渋い顔を浮かべ暫く沈黙した後、今回の和平に至る経緯を話し始めた。
「昨今、局地的な小競り合いが頻発しています。恐らく近々大規模な戦争が大規模な戦争が始まるでしょう。ホド戦争の休戦から15年しか経っていませんから」
「そこでピオニー陛下は、平和条約締結を提案した親書を送ることにしたのです。僕は、中立の立場から使者として協力を要請されました」
 イオンは、ジェイドの言葉を引き継ぐように仲介を依頼されたと言い出した。
「なら、何故導師イオンが行方不明になっていると噂になっているのです」
「そうだぜ。ヴァン師匠もイオンを捜索に出ているんだぜ」
 イオンは、困ったような憂いを帯びた顔でローレライ教団の実情を話し始めた。
「ローレライ教団の内部事情が影響しているのです。私を中心とする改革派と大詠師モースを中心とする保守派とで派閥抗争をしています。モースは、戦争が起きるのを望んでいるのです。マルクト軍の力を借り、モースの軟禁から逃げ出してきました」
 イオンの言い分に顔を顰めていると、更に頭の痛いことをジェイドが言い出した。
「教団の実情は兎も角として私達は親書をキムラスカに届けねばなりません。しかし、我々は敵国の兵士。いくら和平の使者と言えど、すんなりと国境を越えるのは難しいでしょう。ぐずぐずしていては、モースの邪魔が入ります。その為に、貴方の力……いえ地位が必要なのですよ。ルーク」
 人に物を頼む態度じゃない。絶対ない。怒りのあまり私の顔から表情が削げ落ちた。人間怒髪天を点くと表情がなくなるのか、初体験だ。
「100点満点中0点です。随分となめてらっしゃるんですね、和平の使者を。悪名高い死霊使いを和平の使者に立てるに−10点、更にカーティス大佐の不敬オンパレードに−10点。また、導師イオンを教団の許可なく連れ出したこと、連れ出された当人もホイホイついてきたことに−25点。ルーク様に和平強要で−45点。導師守役の不敬で−10点」
「面白い配点だな」
「0点取れるなんてある意味天才です。流石、天才と謡われるジェイド・カーティス大佐様々ですね。数年前までは、切れ者と云われた導師イオンの面影もなくなり残念無念でいっぱいです。導師イオンを仲介役に据えている時点で、この和平は終わったもの同然ですが」
 そう話を締めくくると、これには流石にイオンも腹が立ったのか機嫌の悪さが滲み出るほど低い声で問い掛けてきた。
「それは、どういう事ですか?」
「私が、神託の盾騎士団に所属しているからです」
 私の答えが理解出来なかったのか、眉を潜めている。
「は? それが何? ティアが、神託の盾騎士団に所属しているのと和平と何の関係もないじゃん」
 馬鹿じゃないのと言いたげなアニスに、ルークは思いっきり大きな溜息を吐いてみせた。
 吐きたくなるのは分かるが、私も吐きたい。寧ろ、あれで分からないこいつらに説明してやって欲しい。
 なんて切なる願いは、空しく掻き消された。
「私とルーク様が、マルクトにいる経緯を話したはずですが、どうやらカーティス大佐だけでなく導師イオンやタトリン奏長も人語が理解出来ない人種だったようです。ルーク様、最早話しても無駄だと判断致します」
「……そうみたいだな。悪いが、その申し出は受けられない」
 ルークが、キッパリと取次ぎを拒否するとジェイドは近くの兵に向かって私達を牢屋に入れるように命令を下した。
 私達は、顔面蒼白になった兵士に連れられ鍵の掛かっていない牢屋に入れられる事となった。
 彼らのジェイドに対するせめてもの抵抗が垣間見た気がするが、隣国の王族を牢屋に入れるという前代未聞の醜聞を成し遂げた瞬間でもあった。

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