小説 | ナノ

40.ぼったくり辻馬車 [ 41/48 ]


 どれくらい歩いただろう。太陽は、真上に差し掛かっている。彼是六時間程度は歩いているだろう。
 インドアな私にはキツイ現状に溜息が漏れた。森を抜けるとやっと整備された道に出てホッと息を吐く。
 少し先で辻馬車が立ち往生しているのを見つけ思わず口角が上がる。
「あの……」
「うわっ!? なんだい驚かせるなよ」
 ビクッと身体を大きく揺らし驚く男に私は丁寧に謝り乗車を願い出た。
「突然話しかけて申し訳ありません。馬車に乗りたいのですが構いませんか?」
「ああ、そりゃ構わないが車輪がいかれちまってね。直すのに時間が掛かるがそれでも良いかい?」
「ええ、大丈夫です」
 ここまで歩き通しだったのだ。今までの状況を考えれば、車輪が直るのを待つのも苦にはならない。
 手持ち無沙汰になった私は、車輪を直している馭者に尋ねた。
「そういえば、私が声を掛けたとき凄く驚いていましたが何かありましたか?」
「この辺りは、漆黒の翼が荒しまわっているんだ」
「漆黒の翼……嗚呼、世間を賑わせている盗賊団のことですね」
 男女三人組のチンケな盗賊団のことか。貧しいものは狙わない盗賊と聞くが、果たして義賊だと云えるかどうかは別物だ。人様の物を盗んで生活している時点でアウトだ。
「こんな場所で人と会うとは思わなかったからな。驚いちまったんだよ。待たせて悪かったな。車輪も直ったことだし、どこへ行けば良い?」
「この辺りで大きな町はありますか?」
「セントビナーが一番近いだろうねぇ」
「セントビナー……」
 マルクト領か!! 恨むぞ襲撃犯。先の獣道で怒りに任せてスプラッシュで叩き潰したが、手加減などせずインディグネイションで消し炭にすれば良かった。
「そこまで幾らですか?」
「8000ガルドだな」
 絶対足元を見ているな、この男。ぼったくりも良いところだと言いたいところだが、さっさとこの場を去りたかった私は腕についていたボタンを外し彼に渡した。
「現金を持ち合わせていないんだ。これで乗せて貰えないだろうか」
 純金でファブレの家紋が入ったボタンに、彼は機嫌よく二つ返事で了承してくれた。
「これだけ良い細工がしてあるボタンなら高く売れそうだ。良いだろう。乗りな」
「ついでと言ってはなんだが、フードがあれば欲しいのだが」
「あんたにゃ、ちと大きいかもしれないが着古しの奴で良ければやるよ」
 ゴソゴソと成人男性用のボロボロのフードを手渡され、私は何の躊躇いもなくそれを羽織った。
 若干臭うが、この際四の五の言ってられない。朱金の髪と碧の瞳は目立ちすぎるのだ。
 敵国の王族がうろついているなんて知られたら何されるか分からないからだ。
「着いたら起こしてやるよ」
「ありがたい」
 張り詰めた緊張の糸が切れ、私は束の間の休息を得ることが出来たのだった。

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