小説 | ナノ

28.被験者vsレプリカ [ 29/48 ]


 アホ面じゃなかった、まぬけ面でもなく……唖然とした顔で私の顔を凝視する彼は、突発的なことには弱い性質らしい。こういう所は、クリムゾンと似ている。
「色々と言いたいことがあるでしょうが、取敢えず着替えて貰えませんか? 家人に見つかったら撲殺されますよ。ダアトアレルギーなんで」
 至極真面目な顔で師団服を指差して断言すると、アッシュは青い顔を引きつらせた。
 家庭教師の前と比べ借りてきた猫のように大人しいアッシュを見て、私は拘束していた包帯を解いた。
 身体が自由になったにも関わらず殴りかかってこないのは、あまりにも異なり過ぎたレプリカに相当混乱しているらしい。
 例の盗聴を思い出す限り、ヴァン・グランツに色々と吹き込まれていたのは予測できていたが、一体奴は何と言って私を悪しく言っていたのか気になるところだ。
 それを鵜呑みにしていたアッシュもアッシュだが、突きつけられた現実が彼のアイデンティティーを喪失させたと云っても過言ではないだろう。
 私は、アッシュにドレスを着せるわけにもいかず執事の制服を用意し手渡した。
 他人の着替えを視姦する趣味はないので、目を瞑り彼が着替え終わるのを待つ。
 着替えを終えたアッシュに私は椅子を勧め座るように促した。どう切り出そうかと思っていたら、眉間に皺を寄せて呻くようにアッシュの方から切り出したので黙って聞くことにした。
「……お前は、本当に俺のレプリカなのか? 見た目からして全然似てねぇ。父上の愛人の子とかじゃねーのか?」
 クリムゾンの愛人か、想像力が豊かな被験者に私は一番手っ取り早く分かる手段を用いてレプリカであることを証明した。
 朱色の髪を手に取りざっくりと切り落として見せると、まさか髪を切るとは思わなかったのかアッシュは目を見開き驚いている。
 髪は光に溶けるように消えてなくなってしまった。
「嘘だろう……」
「嘘なわけありますか。髪まで切り、目の前で消えた。レプリカの特徴くらい髭に教わっているでしょうに。性別は異なっても、私の音素振動数も貴方と同じです」
「何だって!? お、お前女なのか!」
 ショックと言いたげなアッシュに私は思わず顔を顰める。常々ルークとして体裁を守るべくドレスシャツにパンツという出で立ちではあるが、そこまで驚かれるなんて心外だ。
 シュザンヌの若い頃にそっくりと言わしめる美貌を前に、男だと思っていたのかこの赤鶏は。
「女と証明しましょうか」
「は?」
 云われている意味が分からないと言いたげなアッシュの手を掴み、ささやかだが成長途中の胸に押し当てた。ベスト1枚で隠れるささやかな胸だが、しっかり付いているものは付いている。
 むにゅりとした感触に、アッシュは一瞬にして熟れたトマトのように真っ赤な顔になり、私の手を振り払った。
「な、な、な……何はしたないことしてやがる! 慎みを持ちやがれ」
「貴方が頑なに信じようとしなかったから胸揉ませたんでしょうが。この程度でうろたえるなんて情けない。童貞でしょう、あんた」
「そういう問題じゃぬぇぇええ」
 頭を抱えて喚くアッシュをホーリークロスで殴り黙らせる。
「人払いしているとはいえ、誰かに聞かれたらどうするんですか。只でさえ、王族の責務を忘れ命惜しさにダアトへ亡命したと思われて母様達の怒りを買っているのに、ここに居るのがバレて刃傷沙汰になるなんて真っ平ごめんです」
 私の部屋がアッシュ如きの血で汚れるなんて言語道断だ。そこまで言うと、彼は今度こそ魂が抜けたように動かなくなった。

*prevhome#next
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -