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17.デモストレーションでケセドニアを訪れてます [ 18/48 ]


 今、私は交易都市ケセドニアに来ている。理由は、タイプライターのモニターをして貰う為にケセドニアの代表者であるアスターに会いに来ている。
 非公式の会談のため、護衛はセシルとガイ、そして身の回りの世話役にマリアの計三人を伴って彼の家に訪れていた。
 通された部屋は、珍しい置物が品良く展示されている。成金趣味に走らない内装は、アスターの人柄を表しているようだ。
「お待たせして済みません。ヒヒヒッ、お会いできるのを楽しみにしておりましたよ。ルーク様」
「アスター殿のお噂はキムラスカまで届いてますよ」
 お互い握手を交わすと、席を勧められた。入口に立っているのはガイ、私の背後に立っているのはジョゼット。マリアは、宿の手配とケセドニアの町を見てくるように指示を出しているためここにはいない。
 私は、フカフカのソファーに腰を下ろし持ってきたタイプライターをローテーブルの上に置いた。
「おお! これが、タイプライターという譜業で御座いますな。フォニック言語が一つ一つ付いておりますが、一体どうやって使うのですか?」
「ここに紙をセットして、キーボードを押していくのです。そうすると、インクが紙に移り文章が浮き上がる仕組みになっています」
 試し打ちをしてみせれば、彼は甚く感動していた。
「確かに画期的な物だが、果たして一般的に普及するでしょうか。ボタンを探す方が、時間が掛かりそうに思えるのですが……」
 タイプライターの価値はあるが、それが売れるかどうかは別問題。流石、交易商を営んでいるだけあって慎重だ。
「キーボードの配列を覚えてしまえば、書く手間が省け時間が短縮されます。一般家庭よりも、商売を営んでいる店に需要はあると考えております。メニュー表一つにしても、伝票一つにしても、手紙の代筆一つにしても綺麗で読み易い字がタイプライター一つで叶うなら安いものでしょう」
「確かに……。だが、コストの面はどうなりますかな? 購入費や消耗品の買換えにコストが掛かれば継続して利用するのは難しいでしょう」
「それなら大丈夫です。タイプライター専用の乾きにくいインクを開発していますし、本体自体大量生産が可能です。一般家庭からしたら少し高い譜業ではありますが、十分手が届く範囲で料金設定しておりますからご安心ください」
 懐から電卓を取り出しポチポチとオープン価格を提示して見せたら驚かれた。
「本当にこの値段で売り出せるんですか!?」
「ええ、ただ知名度がありませんのでアスター殿に協力して頂きたいのです」
 ニッコリと営業スマイルを貼り付けて取引を持ちかけると、一瞬にして彼の表情が引き締まった。
「……協力とは?」
「モニターをして頂ける方を探して頂きたいのです。タイプライターを100機ご用意しております。モニター期間は3ヶ月。使い勝手などを報告して頂ければ結構です。モニター終了後は、お使い頂いたタイプライターを差上げます」
 私の発言に息を呑んだのは何もアスターだけではなかった。同席していたジョゼット達の度肝も抜いてしまったようだ。
 地球では至って普通の在り来たりなビジネス戦略なのだが、オールドラントでは考えもつかなかったらしい。
「太っ腹ですね」
「そうでしょうか。定期的に使われる方の意見などを伺い商品開発に役立てるのですから、これくらいのお礼は当然です。使い方などは、シェリダンの者を数名派遣させ常駐させますので故障の時も対応できるようにしておきます。技術者が来るまでは、うちのガイを残して行きますのでご安心下さい」
 声なき悲鳴が聞こえた気がしなくもないが、私の良心は痛まない。タイプライター普及に一役買ってくれ。特別手当は用意しておこう。
 私は、当人の了承なくあっさりガイを売り飛ばしたのだった。

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