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とある一日のひとこま 後編 [ 13/23 ]


 ぬらりひょんに散々好き勝手され、朝から爛れた時間を送っている気がしなくもないと自己嫌悪していたら、廊下が慌しくなる。
 窓際でプカプカ煙管を吸っていたぬらりひょんも、騒がしさに眉を寄せ襖の方を睨んでいる。
 バンッと襖が空いたかと思うと、鬼の形相をした鯉伴が霞を腕に抱き仁王立ちしている。
「見つけたぜ」
「遅かったのぉ。もう終わったぞ」
 煙を鯉伴へ向けて吐き出すぬらりひょんは、ニヤッと人の悪い笑みを浮かべていた。
「ふざけんなっ、クソ親父! 今回は、俺が瑞を抱く番だろうが!!」
「知らねーなぁ。早いもん勝ちじゃ」
 何その勝手に順番を決めているんですか、貴方達は。露骨な言い合いをしている馬鹿二人を余所に、鯉伴の脇に抱えられた霞がジタバタと暴れボトッと畳の上に落ちたかと思うと、パタパタと私のところへ一目散に抱きついてくる。
「かーたん、フカフカ」
 胸に顔を埋め甘えているが、今着物着てないのだ。物凄く恥ずかしいのだが、幼い彼女には分かっていない。
「霞、ちょっとお耳塞いで目を閉じていようね」
「う? あい」
 私の怒りを悟ったのか、何でと聞くこともなく目をギュッと瞑り両手で耳を塞いでいる。
 私は脱ぎ捨てられた単を羽織り未だ馬鹿なことを言い争っている二人の前に立った。
「……お二人とも暫く触らないで下さい!」
「そんなことしたら、ワシの滾る欲求はどこへ向かえば良いんじゃ!!」
「おいおい、勘弁してくれよ。俺は、今回瑞を抱けなかったんだぞ。その上、禁欲なんてあんまりだ」
 不満を漏らす二人に堪忍袋の緒が、ブチッと切れる音を聞いた気がした。
「ぬらりひょん様、寝起きの私を攫ったかと思えばこんなところに連れ込み好きかってして。鯉伴様も、霞を使ってこの場所を突き止めたんでしょう。子供が居る前で……信じられない。恥ずかしさでいっぱいです。もし触れたら水郷様のところへ戻りますから」
 ギッと睨みつければ、二人はそんなぁ……と情けないを顔しているのを見て私は少しだけ溜飲を下げる。
 二人の禁欲が解かれるのは十日後になるのだが、二人に抱き潰され三日間屍になるのはまだ知らない。
 私は霞を抱き上げぬらりひょんと鯉伴を追い立てながら邸に戻ると、休む暇もなく家事にいそしむこととなったのだった。

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