小説 | ナノ

とある一日のひとこま 前編 [ 11/23 ]


 私の朝は早い。夜通し起きている妖怪達の食事作りから家事に一日が費やされる。
 自分の時間と言えば、就寝の数時間だけである。
 まどろみながら違和感を感じ目を開けると、ぬらりひょんの端正な顔があり思わず悲鳴を上げた。
「キャァアアッ!!」
 私の悲鳴で叩き起こされたぬらりひょんは、眠たそうに目をパシパシと瞬いている。
「おはよう」
 チュウッと唇を吸い付き首筋に顔を埋めてゴロゴロしているぬらりひょんに、私は頭が痛くなった。
「あー! としゃま、ちゅーしてる。あたちも!!」
「しゃくらも」
 キスシーンをしっかり見ていた桜と九重が自分もとぬらりひょんに強請っている。
「良いぞ。お早う桜、九重」
 頬に軽いリップ音を響かせキスをしているぬらりひょんに対し、私は顔を引きつらせながら問い掛ける。
「何でぬらりひょん様がここにいるんですか」
「良いじゃねぇか。一緒に寝るくらい。何じゃ、霞もチューが欲しいか」
 珍しく霞が、ぬらりひょんに近付いている。霞を抱き上げ頬にキスをしようとしているぬらりひょんに対し、霞は鋭い牙をむき出しにしガプリと彼の手に噛み付いた。
「ウワッ!? 何すんじゃい」
「かーたんをいじめるちゃ、メッなの」
 全身の毛を逆立て威嚇する霞に、私は軽く嗜める。
「いきなり噛み付いちゃダメよ」
 私に窘められ霞は、唇を尖らせ言い返してくる。
「だって……りあんたんが、かーたんにちかづくやつはかんじまえっていってたもん」
 彼女の言葉に呆気に取られる私を余所に、ぬらりひょんは自分の都合が良い様に歪曲し霞に言い聞かせている。
「ワシは、瑞の夫じゃから近くにいて良いんじゃ。ワシ以外が近付けば、さっきみたいなことをしても良いからな」
「りあんたん、いったもん。とーたんもわるいむしだって! だからメッなの」
「父様と鯉伴どちらの言葉が重いと思っておる」
「りあんたん!」
 霞にとって鯉伴の言葉の方が大きい意味を持つようで、ぬらりひょんは娘の言葉に撃沈している。
「かーしゃま、お耳出てる」
 九重の指摘に、私は頭に手をやると猫耳がピョコンと生えていた。
 つい三日前に抱かれたばかりなのに、早すぎるだろう。ズーンッと落ち込む私に対し、復活したぬらりひょんがニィッと笑みを浮かべて言った。
「今日は、一日休みじゃな! お前ら、雪羅んとこに行って飯食わせて貰え。ワシらは寝技の勉強に行ってくる」
「「「あーい」」」
 飯と聞いた霞は、素直にぬらりひょんの言葉を聞いている。
 私に自分の羽織を被せ抱き上げたかと思うと、真・明鏡止水を使い屋敷を抜け出した。
「どこへ行くつもりですか!!」
「密事の邪魔をされんところじゃ」
 嬉々とした顔で宣うぬらりひょんに、私は冗談じゃないと暴れてみせるが、男と女の力の差は歴然で抵抗空しく逢引茶屋の一室に連れ込まれることとなった。

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