小説 | ナノ

少女陰陽師の葛藤 [ 6/23 ]


 第一印象は、気に食わん。知ったかぶりすんな。――そう思とった。
 妖怪は悪。そう習うてきたし、悪いことしかせーへん奴を何で庇うんか分からん。
 歯切れ悪く助けられたと言ってたが、実際のところはどうなんだか。
 反りは合わんやろうと思ってたから、極力近寄らんようにしてたんやけどなぁ……。
 細やかな気配りのできる彼女は、いつの間にか清十字怪奇探偵団のお姉さん的存在になっとって、うちのこともあれこれと心配してくれる。
 海女の一件で、藍が嫌な子やないのは分かった。無茶苦茶お人よしで天然入ってる変な子や。
 何を仕出かすのかさっぱり見当がつかんから、突拍子も無い行動に周りが驚かされる。
 今日も、学校に来た早々うちの顔を見ると彼女は、鞄の中からお弁当箱を取り出し手渡した。
「ゆらさん、お早う御座います。これ、お昼に召し上がって下さい」
 一瞬、ポカンと彼女を見つめた後、お弁当と交互に見比べる。
「これお弁当やんな? どういうことなん?」
 頭に疑問符が沢山並ぶうちに、彼女はニコニコと笑みを浮かべて言った。
「ゆらさん、ちゃんと栄養バランスを考えたご飯取ってないでしょう。失礼かと思ったのですが心配で……。日頃お世話になってますし、お礼をと考えたらお弁当くらいしか思いつかなくて。迷惑でしたか?」
「そ、そんなことあらへん! めっちゃ嬉しい。でも、ええん?」
 藍の作るご飯はとっても美味しいさかい嬉しいんやけど、お弁当を作って貰うほどのことはしてない気すんねんけど。
「良いも何も、私が好きでしていることですから。梅雨に入れば夏まで直ぐですよ。食生活の乱れで、夏バテになって寝込んでしまわれる方が心配です」
 キッパリと断言されてもうた。食生活が乱れていることなど彼女にはお見通しみたいや。
「ゆらさん、清十字怪奇探偵団で陰陽師の力を無償労働してるんですよ? お弁当は、その報酬だと思って頂ければ良いのではないでしょうか。お昼は私がお弁当を作ってきますから、その分のお金を朝ご飯にちゃんと回して下さいね」
「おおきに、ほんまええ人や! 困ったことがあったら、何でも言ってや。うちが、守ったるさかい」
「はい、その時はお願いしますね」
 海女の時うち倒れて全然役に立たへんかったのに、見習い陰陽師の自分を頼ってくれる彼女に思わず涙が出そうになった。
 うちの事を無条件で心配してくれる相手って家族以外におらんかったから、何か不思議な感じがする。
「何でゆらちゃんにお弁当渡してるの?」
「そうです。納得いきません!」
 突如うちと藍との会話に乱入してきた家長カナと及川氷麗が、うちが藍の手作り弁当を貰うのが納得出来ないと怒り出した。
 藍が、困ったように二人を宥めている。かるがもの親子のように、リクオとカナが藍の後を付いて行く姿は見慣れていたが、更に氷麗が加わったところは初めてだ。
「そう言われても……、あ! では、私のお弁当を交換しましょう。自分で作るお弁当は、中身が分かっているので開けた時の楽しみがないんです。お弁当を交換すれば、何が入っているか分からないので毎日お弁当の時間が楽しくなりますよ。どうでしょう?」
「それなら文句はないわ」
 うちの弁当を作らないっていう選択肢は頭にないようで、自分の弁当を交換すれば良いのではと代替案を出している。
 藍、あんた良い人過ぎるで!絶対、他のメンバーに文句言われとる姿が目に浮かぶわ。
「文句大有りです! 何で家長にまで藍の弁当をくれてやらねばならないんですかーっ!! 嫌です! 絶対に許しませーんっ」
 取り乱した氷麗が、感情が爆発したのか大泣きし始めた。流石に、これには彼女も驚いたのか氷麗の手を引き教室を出て行ってしまった。
 呆気に取られるうちに対し、カナがニッコリと笑みを浮かべて言った。
「藍ちゃんは誰にでも優しいけど、私が一番の親友なのよ」
「……」
 何言っとんのやこの娘は。白い目でカナを見てもしゃーないと思う。許されるはず、うん。
「ゆらちゃんの食生活が心配だから、藍ちゃんが気を使ってお弁当を作ってくれてるだけなんだからね!!」
「……近づくなって言いたいんか? えらい遠まわしに言わはるんやね」
「……誰もそんなこと言ってないわ」
 じゃあ、その間は何やねん。人の話を歪曲して右斜め上に解釈する頭は、もうちょっと正常にならなあかんと思うで。
 奴良リクオのことを聞き出そうとした時もそうやったけど、この娘やっぱりどっか頭のネジが飛んどるわ。
「あっちの方は、あんたのこと親友とは思うてへんかもな。うちの為だけにお弁当作ってくれるくらいには親しいで」
 勝ち誇った目で見れば、カナは悔しそうに唇を噛締めてる。ざまあみろ。しかし、一番の疑問はあれだ。
「でも、後から出会ったはずの及川さんがうちらより親密そうに見えるんは何でやろう」
「それは、言えてる。リクオ君は、一緒に住んでるから百歩譲りたくないけど仕方が無いとしても、及川さんって何? リクオ君繋がりらしいけど、それにしても馴れ馴れしいっていうか、図々しいっていうか。いつの間にか、ちゃっかり隣をキープしてたりするのよね」
 藍も氷麗の無茶振りに笑いながら応えている。うちやカナと、氷麗とでは扱いが少し違って見える。
「あの人何者なん?」
「さあ、これだけはハッキリ分かるわ。藍を独占しようとしてるのよ! 私の藍をあんなポッと出に渡さないんだから」
 凄いことを言っている自覚はないんやろうけど。何で彼女の周りには、変な子がいっぱいおるんやろう。
 確かに一緒にいてホッとするし、安心できるんやけど。カナみたいには思えんわ。
 藍は通り見かけによらずポヤヤンしとるし、うちが毒牙から守ったらなあかん!
 そう思っていることが、既に毒されてたなんてうちは気付かなかった。

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