小説 | ナノ
ピチしモン中編 [ 3/23 ]
夏も目前という時に、皆さん事件です。学校に行ったら、ピチしモンを手にした鳥居と巻に囲まれてしまった。
「お二人ともお早う御座います」
「何のんきにお早うよ!!」
「藍が、ピチしモンの読者モデルだったなんて聞いてないよ!」
「は?」
一瞬何を言われたのか理解できず、思いっきり素で返事してしまった。
取り繕うように笑みを浮かべた私だったが、状況を聞く前に鳥居が持っていたピチしモン(表紙)を見せられて理解した。
「嘘っ、何であの時の写真が!?」
カナと一緒に撮った写真が、表紙を飾っているではないか。思わず鳥居から雑誌を奪いマジマジと眺めてしまった。肖像権の侵害だ。まさか自分の写真が使われるなんて思っても見なくて呆然としてしまった。
「藍、帰るよ」
ニッコリと笑みを浮かべるリクオに、私はヒッと小さな悲鳴を上げる。目が全然笑ってない。夜の姿で無表情に怒る姿も怖いが、今のように笑顔で怒る方がもっと怖い。
「リクオ君? えっ? ええっ??」
腕を掴まれズルズルともと来た道を戻る。その様子を見ていた鳥居と巻は、複雑な笑みを浮かべ私に向かって合掌している。
まるで冥福を祈られているように感じるのは、これからリクオからお仕置きを受けるのが予測できるからだろうか。
始終無言で早々に帰宅した私とリクオを見たぬらりひょんは、目を大きくして驚いている。
「学校じゃなかったのか?」
「それどころじゃないからサボった」
サボるなんて言葉が出てくるとは予想もしなかったのか、意表を突かれたぬらりひょんは自分の孫を凝視している。
うん、その気持ちは分からなくもないけれど。今は、彼から助けて欲しいかな。
「丁度良いや。じいちゃんも藍を説教して」
「は?」
何を言い出すのかと思いきや、私が持って帰ってしまったピチしモンの新刊を見せて言った。
状況を理解したぬらりひょんは、物凄く可哀想な目で私を見ている。そんな目で見ないで、助けて欲しい。
「と、取敢えず立ち話することじゃねぇ。中に入って話そうや、な?」
「……そうだね」
怒り収まらぬといった様子のリクオに、私は泣きそうだ。
ぬらりひょんの部屋に着くと、説明を求められるまま話したら無茶苦茶怒られました。
「あの女……」
普段の彼には似つかわしくない乱暴な言葉に、相当ご立腹なのがよく分かる。
「藍は、この写真については使われることを承諾しとらんのじゃろう? なら、これを使ったピチしモンに問題がある。ワシが何とかするから、お前は安心せい」
「ぬらりひょん様ー!」
ぬらりひょんが飴なら、リクオは鞭だ。ポンポンと頭を撫でられ、思わず泣きながら抱きついてしまった。
「何じいちゃんに抱きついてんのっ!」
リクオによってベリッと引き剥がされ、私は恐怖で身体を震わせる。
「そもそも、藍がカナちゃんについて行かなかったらこんな事にはならなかったんだ」
「う”ぅ……仰るとおりです」
「幾ら藍が可愛いからと言って独占しちゃいかん。愛想つかされるぞ」
「うっさいよ! じいちゃんは黙ってて」
ぬらりひょんの突っ込みに、リクオは怯まない。
「当分、一人で出歩くの禁止!! もし、一人で出歩いたら……足腰立たないくらいに犯してやる」
最後の一言は、私だけに聞こえるようにボソリと耳元で呟かれた。
ブルブルと首を横に振る私に、彼はチッと舌打ちしたかと思うと私の腕を掴み立たせた。
「じいちゃん、その雑誌の件は任せたから。藍は、お説教だよ」
まだ終ってなかったのかと声に出さず突っ込みを入れた。出したら最後、明日の朝日を拝むことが出来なくなる。
ぬらりひょんに助けを求めようとしたら、頑張れと口パクされた。
嫉妬に狂ったリクオを止めることなどぬらりひょんには無理だ。
もし、彼の立場だったら同じことを――否、それ以上のことをしたに違いない。
「曾孫も近いかのぉ……」
リクオ達が居なくなった部屋で、ぬらりひょんが複雑な顔でボソリとそんな事を呟いているとは思いもよらなかった。
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