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私の一番大好きな人 [ 1/23 ]


 あれは、彼女と出会った日のこと。
 とっても可愛い女の子が、リクオと一緒に手を繋いで登校してきた。
 彼の一番傍に居るのは自分のはずなのに、その隣には見知らぬ女の子が居座っている。
 かなかな良い雰囲気で胸がモヤモヤする。気持ちを振り切るかのように、リクオに声を掛けた。
「リクオ君おはよう」
「カナちゃん、おはよう」
 パッと振り返った彼は、満面の笑みを浮かべて挨拶を返してくれた。
 いつもと変わらない彼に、なんだか変な心配をして損した気分だ。
 声を掛けたのに彼の手は繋がれたままで、思わず低い声で彼女の存在を問い掛けてしまった。
「彼女だれ?」
「佐久穂藍と申します。リクオ…君とは、遠縁にあたり分け合って彼のお家に居候させて貰っているんです」
 同い年なのに敬語を使う彼女は、佐久穂藍と名乗った。リクオと手を繋いでることにモヤモヤしているのが彼女には見透かされているようで、苦笑いを浮かべている。
「ふぅ〜ん……」
 その手を離しなさいよとは言わなかったものの、いつまで繋いでつもりなんだと心の中で毒づいた。
 藍は、リクオから手を離し私のギュッと手を握ったかと思うと花が綻ぶような笑みを浮かべて言った。
「最近、こっちに越したばかりなのでよろしくお願いしますね。それと、彼は私が酷い迷子癖を心配して手を繋いでくれてただけだから心配しなくて良いですよ」
 彼女は、私がリクオのことを気にしているのを知っているような口ぶりで自分は安全牌だと公言している。
「そ、そんなんじゃないよっ。私は家長可奈。よろしくね」
 慌てて訂正しても既に遅くて、彼女は茶化すわけでもなくやんわりと受止めてくれた。リクオが、藍を傍に置きたがる理由が分かった気がする。
 彼女は、陽だまりのような温かさで包み込んでくれるのだ。何も心配しなくて良いよと言葉ではなく体言してくれる。
 私の直感が外れていないと分かったのは、お昼休みのことだった。
 藍を引き連れて教室に来た清継が、私達に藍の紹介を始めた。
 彼女は、苦笑いを浮かべている。藍もまた、強制的に清十字怪奇探偵団の一員にされてしまったようだ。
「どないしはったん?」
 既に知っている私と異なり、ゆらは藍に会うのは初めてだ。興味深々で彼女を見ている。
「新しく入った佐久穂藍さんだ。奴良君は知っているだろうが、花開院さんと家長さんは知らないだろうからね! 紹介するよ」
 清継が、藍の手を引っ張りゆらの前に出した。彼女は、私に見せたときと同じ可愛く笑って挨拶をした。
 大きな目なのに端は釣りあがっているから、普通にしていると近寄りがたい藍だが、笑うとその印象はガラリと変わり愛らしい。
 そのギャップに嵌る人は沢山いるんじゃないだろうか? その笑顔を惜しげもなくゆらに見せる藍にイラッと来た。
「えっと、花開院さんですね?初めまして、佐久穂藍です」
「うちは、花開院ゆら。ゆらでええよ。佐久穂さんって、妖怪好きなん?」
「そうですね……。害のある妖怪は好きになれません」
「妖怪にあったことがあるような口ぶりやね」
「なにぃい!? それは、本当かい佐久穂さん! いつどこで会ったんだい?」
 妖怪の好みの話になった瞬間、ゆらの突っ込みに対し清継が食いついた。
 しかも、藍の肩を思いっきり掴んで揺さぶっている。
「顔近いです。放して」
「僕の質問に答えてくれるまで放さないぞ」
 困惑というよりは、嫌がっている。清継の執拗さに諦めを悟ったのか、彼女はポツリポツリと妖怪と会ったことがあると話てくれた。
「……以前、迷子になった私を助けてくれたんです」
「それはどんな妖怪やった?」
「うーん……言葉で表せないくらい変わった姿をしてましたね。上手く説明できなくてごめんなさい」
 私も小さい頃に年変わらぬ妖怪の主に出会ったことがある。もちろん、藍の肩を掴み妖怪の主に会いたいと喚く清継も会っている。
 だから、ゆらの否定しかできない言葉は正直悲しかった。
「力のある妖怪が人助けするなんてありえへん! それほんまに妖怪か?」
 お化けや妖怪は怖い。怖いけれど、助けられたこともある。清継のようにもう一度会えたなら、お礼を言いたい気持ちもあった。
 だから、藍の言葉は言えなかった私の気持ちを代弁してくれて否定されなかった気持ちが嬉しいと思った。
「ゆらさんの持論で言うなら、神に近い天狐も悪ってことよね? 座敷童子や幸運をもたらす付喪神だって悪なんでしょうか」
「それは……」
「物の見方って一つじゃありませんよ。確かにゆらさんが言うような妖怪はいたら怖い。でも、私を助けてくれた妖怪は少なくとも優しかった。人にも色んな人がいるように、妖怪にも色んな妖怪がいると思います。だからね、相手を知ってからでも対処するのは遅くないんじゃないかな?」
「そんな甘い考えやったら即仏さん行きやで」
「ゆらさんの言う妖怪は悪いものばかりなの?」
「せや、妖怪は悪! 人を騙し襲い奪い食らう……人から恐れられる存在や。だから、陰陽師が存在すんねんで」
 彼女に藍の言葉はまだ届かなかったけど、私はそれでも良い。否、それで良い。
 藍の優しさに気付き彼女と仲良くされては、一緒にいる時間が減ってしまう。
 彼女は、私を一番理解してくれる。安心をくれる。温かい存在だ。むざむざ他の人にあげたくない。
 その後、私の直感は当っており藍は私の一番大好きな人になった。
 リクオをはじめ、及川氷麗やゆら、そして清十字怪奇探偵団のメンバーは、彼女の虜になっている。
 目下、リクオと及川氷麗は抹殺したい。あの二人が、私の藍を狙い横取りしようと目論んでいるからだ。
 リクオが気になる存在だったあれは一時の迷いであり、過去の汚点と言っていいだろう。
「まずは、藍ちゃんをリクオ君から引き離さないと。……あ、良いこと思いついちゃった」
 私は、ニンマリと笑みを浮かべポチポチと携帯のボタンを押す。
「あ、マネージャ? あのね、今度の撮影なんだけど友達連れて行きたいの。うん、見学させてあげても良い? ダメなの?……イメージに合う子なんだけど、どうしてもダメ? うん、そう…押しに弱いからごり押しすればOK貰えるかも。その時は、私も頼んであげるし。…えっ、やったー♪ ありがとう」
 藍を独占するなら、共有できる時間を増やせばいいのだ。ああ、ダメだ。考えただけで顔がにやけてくる。
 私は、貴女を逃がす気なんてないんだから。だから、諦めてね!
end

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