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かき氷大戦争 [ 1/11 ]


 それは、猛暑が厳しいとある日のことだった。珍しく昼間から起きてきた鯉伴が、デートしようぜと言い出したので、丁度良いとばかりに夕飯の買い出しに連れ立ったのだ。
 商店街ではサマーセールの一環なのか福引をしており、私達も例に漏れず買い物した時に福引のチケットを貰った。
「鯉伴様、折角ですから福引して帰りませんか?」
「福引ねぇ。何か欲しいものでもあるのかい?」
 逆に質問で返されてしまった。別に欲しいものがあるわけではないが、あると答えたら盗ってきそうなので曖昧に笑って誤魔化すことにした。
「折角、福引券があるんですからゲーム感覚で参加するのも醍醐味ですよ」
「まあ、確かにそうだな。じゃあ、いっちょやるか」
 漸く乗り気になってくれた鯉伴は、私の手を引き福引会場へ歩き出す。チラチラと女の人の視線が鯉伴に集中している。それと同時に、嫉妬を含んだ視線が刺さる。
 鯉伴は、私の腰に腕を回しさらに密着するように抱き寄せる。視線が強くなったのは気のせいじゃない。
「……鯉伴様、わざとやってますね?」
「良いじゃねーか。俺の女だって自慢して何が悪いっていうんだい?」
 自由過ぎます、と心の中で悪態を吐いたらキスされた。
「っ……!」
「往来でするなって言いたいんだろう? 口吸いしちまいたくなる藍が悪いんだぜ」
 さらりと甘ったるい台詞を吐く鯉伴に、私は羞恥心で顔を真っ赤に染め上げた。
 くじ引きなんてせず速攻帰りたいと心底思ったが、鯉伴がそれを許すわけもなくバカップルの如く始終ベタベタ(一方的に)していたせいでクジを引く行列の中で異彩を放っていたのは言うまでもない。
 私達の順番が回ってきたので、係りに引換券を渡し鯉伴に引くようにお願いした。
「何でぇ、藍が引くんじゃねぇのかい?」
「くじ運がありませんから、鯉伴様が引いて下さい」
「そうかい、じゃあ遠慮なく」
 ガラガラと取っ手を回し出てきた玉は金色。初っ端から大当たりだ。
 連続して回す度に、面白いほどに当たっている。10回とも外れないという快挙を叩き出した。
「……凄いですね」
「んぁ? そうでもねーよ。それより景品どうするかねぇ」
 米やら酒やら商品が山のようになっている。持ち帰るのは難しいので、後で男集を寄こし取りに行かせるのが良いだろう。
「夕方、うちの人に取りに行って貰いましょう」
「そうだな。お、これは何だい?」
「かき氷機ですよ。今日は暑いですし、おやつに丁度良いかもしれませんね。すみません。これだけ先に持ち帰ります。残りは、後で取りに行きますので」
 私は、かき氷機とシロップを受取り鯉伴の手を引いて帰路に着いた。

 お昼寝から起きた子供達が、持ち帰ったかき氷機に興味津々で見ている。
「ママ、こえどーやってつかうの?」
「ここに氷を入れて取っ手を回すのよ」
 子供用のお椀をセットし、取っ手を回すと中に入っていた氷がガラガラと音を立てて回っている。
「ふぉー! しゅごーい♪ なんかでたー」
「氷が細かくなったものよ。シロップを掛けて出来上がり」
 いちごシロップを掛けて見せると、子供達はキャイキャイとはしゃぎ出した。
「じゃあ、やってみる?」
「「「はーい」」」
 元気いっぱいに手を上げる桜、九重、リクオ。霞は、スプーンを持ってスタンばっている。彼女は、食い気に走ったようだ。
「じゃあ、霞はこれ食べて良いよ」
「あい」
 パァッと顔を明るくし、美味しそうにかき氷を食べ始めた霞につられて笑みが零れる。
「鯉伴様、子供達のことお願いしますね。かき氷は、一人一杯でそれ以上は食べさせないで下さいね」
「おう、晩飯楽しみに待ってる」
 私は鯉伴に子供達の面倒を頼み、夕飯の支度のため台所へと向かったのだった。

 藍が夕飯の支度のため席を外した後、事件は起こった。
 ちょっと目を離したのがいけなかったのか、桜の泣き声に慌てて戻ると空になったお椀が受け皿に置かれているだけで特に変わった様子はなかった。
「うえぇぇえん」
 怪獣の如く泣く桜を抱き上げ、どうしたんだいと聞くと彼女は霞を指差して言った。
「かしゅみが、わたちのかきごおりたべた」
 霞を見ると、スプーンを加えたまま『う?』と首を傾げている。
「霞、その氷何倍目だい?」
 霞は、指を三本立ててみせた。三杯目ということは、桜以外に犠牲者がいるということか。
「とーさん、かすみボクのこおりもたべちゃったんだ」
「そのわりには、おまえ怒ってないな」
「つららが、よくつくってくれるからたべなれてる」
 黙々と食べていた霞は、残り少なくなったのかジーッと今にも出来上がりそうなかき氷に視線が釘付けだ。
「霞、藍から言われてるだろう。一人一杯までだって」
「ちゅくってくれるのに? たべないのはわるいこ」
「いや、そりゃお前に作ったんじゃなくて自分で食うために作ってんだよ」
「???」
 意味が分かってないのか首を傾げている。しかし、九重のかき氷が完成したのが分かると、霞の行動は早かった。
「あい」
 九重に空のお椀を渡し、新しく出来たかき氷にスプーンを突き立てていた。
「あたちのかきごおりー!! バカバカ、かしゅみのバカァァア! どうちてたべちゃうのよっ」
「? なんで?」
 恐らく、霞は空の椀を桜やリクオにも渡したのだろう。彼女にとってはお代わりで、リクオ達にとっては食べられたと言っても過言ではない。
「霞、お代わりはなしだって藍が言っただろうが。もう、それで終りだ。いいな?」
「あい」
 霞は、ちょっと不満なのかムゥと膨れたもののコクンと小さく頷いた。
「霞は、お代わりのつもりで別にお前達のかき氷を取ったわけじゃないんだ。俺が、新しいやつ作ってやるから泣くな」
 九重と桜の頭を軽く撫であやし、鯉伴は新しいかき氷を作り始めた。
 後に、霞が一人で四杯もかき氷を平らげたことを知った藍が、鯉伴を締上げたのは言うまでもなかった。

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