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守るべきものはA [ 11/13 ]


「それは、わらわにも分からぬ。霞が共に時を渡っておることで、時空に何らかの歪みが生じた可能性はある」
 私の質問は、予め予測していたのか水郷は至って落ち着いた様子で語った。
「私は、元の世界に戻ることは出来ますか?」
「……どうであろうな。時に藍、おぬし月ものは来ておるのか?」
 いきなり月経の話を振られ、時渡りをしてから月経が来ていないことに今更ながらに気付いた。
「いえ、一度もきてませんが」
「月経がきていないなら、帰れる望みはある。だが、月経が来てしまえば帰ることはできないだろう。身体が、この時代に馴染むように作り変えられた証拠になる」
「月経がくるまでに九重の力を安定させなければ、二度と戻れないという事ですね」
 事が事だけに次第に表情も暗くなる。二度と戻れないと云うことは、今まで築き上げた関係も変わってしまうだけでなく、存在自体なくなってしまう可能性もある。
「藍、故意ではなくとも未来が変革されてしまえば代償を求められることを努々忘れるな」
 いつになく真剣な表情で釘を刺す水郷に、私はゴクリと息を呑む。しかし、緊張も一瞬のことでへにょんと眉を下げ情けない顔を浮かべた。
「藍、後生だからわらわのゲームを売るのは止めてくれ」
「はい?」
「あれだけが、わらわの生きがいなんじゃ。頼む!!」
 ガシッと着物の袖を掴んだかと思うと、泣き落としと云う名の懇願された。神様に懇願させる私も私だと思うが、高々ゲーム如きで懇願する水郷も水郷である。
「水郷様が、部屋を散らかすからです。ちゃんと片付けられないなら要りません」
「片付ける。片付けますから、お願いします!!!」
 土下座までして死守したいのか、エロゲーを。呆れた顔で水郷を見ても許されると思う。
 痛む米神を押さえつつ、私は仕方がないと許可を出した。
「今回は、勘弁してあげます。下僕を数名連れて行きますけど、私が居ないからって部屋をぐちゃぐちゃにしていたら今度こそ売り払いますから」
 太い釘を刺して、コクコクと頭を縦に振る水郷を見て溜飲を下げたのだった。
 水郷と話を終えた私は、奴良組に連れて行く妖怪をどうしようかと考えていた。
「水郷との話は終わったのか?」
 パタン、パタンと長い尻尾を揺らしながら問い掛ける雅に私は頷いた。
「ええ、久しぶりに話が出来て良かったわ」
「これに懲りて掃除するようになれば良いんだがな。ところで、奴良組に戻るのか?」
 心底嫌そうな顔で聞いてくる雅に、私は苦笑する。本当に彼は、ぬらりひょんや鯉伴が嫌いなようだ。
「戻らないとぬらりひょん様達が、ここに押しかけてきちゃうわ。それに子供達を若菜様に預けっぱなしだしね。雅、一緒に来てくれないかしら?」
「当たり前だ」
「ありがとう。アヤさんとカゴメにも付いてきて貰おうと思うの。声を掛けてくるから準備をしておいて」
「おい、ちょっ……」
 何か言いたげな雅を置いて、私は水郷の部屋を掃除しているだろうアヤとカゴメに声を掛けに行ったのだった。

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