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守るべきものはB [ 12/13 ]


 下僕達との再会もそこそこに、私は雅達を連れ奴良邸に戻ると何やら騒がしかった。
 玄関先でオロオロとしている豆腐小僧に声を掛けると、彼はホッと安堵した表情を浮かべた。
「豆腐さん、何かあったんですか?」
「藍様、それが桜達の姿が見当たらないんです」
 豆腐小僧の慌てぶりを見る限り、かくれんぼとかの次元ではないのだろう。
「おい、どういうことだ?」
 不穏な空気を感じ取った雅が、豆腐小僧に詳細を話せと迫っていた。
「雅か、久しいな」
「挨拶は後だ。桜達が見当たらねぇってどういうことだ?」
「起きたら居なかったんだ。桜達だけで外に出ることはないから余計に心配で」
 そう零す豆腐小僧に、私は桜達を預ける時に見せた若菜の暗い顔が頭を過ぎった。
 無言で家の中に駆け込む私に驚いた面々が、名前を呼ぶが返事をしている余裕などなかった。
 若菜の部屋の前に立つと、私は声を掛けることなく襖に手をかけ開いた。
 部屋の中には、若菜と談笑していた若い女妖怪達がギョッと目を見張り固まっている。
「子供達はどこです」
「いきなり押し入ってくるなんて非常識だわ!」
「そうよ。若菜様が優しいからって図々しい」
「黙りなさい! 私は、若菜様と話をしているのです」
 私の暴挙を論う彼らを一喝し、若菜を睨めつけた。
「私には、話すことなどありません」
 若菜は、表情を変えることなく淡々と返してきた。その仕草が、より癇に障り腹立たしい。
「私は、貴女に子供達の面倒をお願いしました。帰ってきたら桜達の姿が見えません。彼らはどこにいるのです」
 感情を押し殺し、桜達の居場所を聞くが彼女は口を開くことはしなかった。
 無言で睨み合うこと数分、私は苛立ちを誤魔化すように深呼吸をした。
「……突然押し掛けて申し訳ありませんでした。後ほどお話を伺いに参ります。ですので、お出かけにならないで下さいね」
 謝罪の言葉を述べ軽く頭を下げた後で、私はニッコリと笑みを浮かべて釘を刺した。
「あ、あんたねぇ!」
 私の態度があんまりだったのか、女妖怪が声を荒げるも綺麗に無視して部屋を後にした。
 部屋の外で待機していた雅が、呆れた様子でこちらを見ている。
「鯉伴の奴、会わない間に女の趣味が悪くなった。ありゃ最悪じゃねーか」
「雅、口さがないことを言わないの。それよりもあの子達を見つける方が先決よ」
「うちの連中に知らせて手分けして調べさせるか?」
「烏を借りましょう。その方が早いわ」
 まだ日も高いうちに鴉天狗を叩き起こすのは気が引けるが、桜達に何かあっては元も子もない。
 鴉天狗の部屋へと足を運んだのだが、彼は既に起きておりテキパキと息子達に桜達の捜索を命じていた。
「藍様、今息子達が桜達の居場所を探しております。安心下され」
「ありがとう御座います。こんなに早く起こしてしまう形になって申し訳ありません」
 私の謝罪に、彼は首を横に振った。私達を部屋の中に入るよう促した後、重い口を開いた。
「遅かれ早かれ何か起こるのではないかと思っておりました。警戒はしていたのですが、こんな事になってしまい申し訳ない」
「藍を知らない者からしたら目障りだろうな。お前自身を狙うわけでもなく、子供を狙ってくる辺り悪質だ。それだけ小者なんだろうが、気に食わん」
 憤慨する雅の背中を撫でながら、私はこれからのことを考えると気分が憂鬱になった。
 事の真相をぬらりひょんや鯉伴が知れば、何を仕出かすか分からない。桜達は、血のつながりはなくとも自分の子供として見てくれている。
 家族に害を成した者をそう簡単に許すことはしないだろう。情が厚い妖怪だからこそ尚更だ。
「私も子供達に手を出してくるとは思いたくもありませんでした。まずは、子供達を無事に見つけてから真相を聞きましょう」
 それから10分後に、隣町にある公園に桜達が遊ぶ姿を見たと烏からの報告があり無事に保護することが出来たのだった。

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