小説 | ナノ

いつも別れを見つめて3 [ 87/145 ]


 私が、奴良組で働くのは案の定と言うべきか反対された。鯉伴は、自分の出生を出して私を守ってくれたお陰で、こうして屋根のある場所で衣食住を保証された。
 私は、極力彼らと顔を合わさない日中に食事や洗濯をしている。
 それでも、やはり勝手をするわけにはいかないので私の面倒を見てくれる妖怪とは何かと話すようになった。
「そう言えば、佐久穂っていつも同じ服よね」
「ちゃんと洗濯してますよ?」
「いや、そういう事じゃなくて服とか買いに行ったりしないの?」
 洗濯物を干しながら毛女郎に指摘され、私は奴良組に来てから一度も私用で外に出てなかったことに気付く。
 生理でダウンしている日以外は、私に休みは無い。私は、別にそれでも良かったので疑問に思うこともなかったのだが、彼女は違うようだ。
「まだ着れると思うんですけど、買った方が良いですか?」
「あんたねぇ、若いんだからお洒落しなさいよ! お洒落!!」
「家事をするのにスカートは不向きです」
 私の格好は、シャツとジーパンというラフな格好。奴良組にいると、それでも浮いてしまう格好ではある。
「偶に外に出て遊んだりするでしょう」
「しませんよ。遊ぶより仕事していたいです」
 下手に外出すればお金が掛かるのは避けたい私は、今ので十分満足している。それに、仕事をすることで鯉伴に恩返し出来るのが嬉しいのだ。
 私の回答に唖然としている毛女郎は、折角元は良いのにとブツブツと呟いている。
「欲しいものとかあったりするんじゃないの?」
「欲しいものですか? そうですね……ヘアゴムが切れそうなので、切れる前に替えが欲しいくらいですかね」
 そう答えたら脱力された。その後、毛女郎が鯉伴に直談判して外へ連れ出せと言っているとは知らず私は黙々と家事をこなしていたのだった。


 いつものように家事を勤しんでいたら、珍しく鯉伴が昼時に起きてきて私に声を掛けた。
「佐久穂、ちょっと良いかい?」
「はい、鯉伴様。どうされましたか?」
 洗濯籠を抱えながら、鯉伴の元へ駆け寄ると彼は手の中にあった洗濯籠を奪い通りがかった首無しに押し付けている。
「あ、あの……鯉伴様?」
 仕事を奪われた挙句、別の者に仕事を押し付けた鯉伴に戸惑いを隠せず声を掛ければ、彼はむずんと私の腕を掴んだかと思うと玄関へ引き摺って行く。
「どこへ行かれるんですか?」
「買い物だ。行くぞ」
「え? でも、仕事が……」
「佐久穂、ここに来てから一度も休んでないだろうが。今日は、仕事禁止だ」
「ええ!!」
 横暴なと思うものの、雇い主の言葉に逆らうわけにもいかず佐久穂は溜息を吐きながら鯉伴の後ろを追いかけたのだった。


 出かけた先は、高そうな呉服店に入っていく鯉伴に私も萎縮しながら後に続く。
 店の亭主とは顔馴染みなのか、何やら話している。
 ぐるっと店内を見渡すと値段が桁違いに高かった。帯止めだけで安いものでも一万円は下らない。
 パカッとアホ面を曝しながら呆けていると、鯉伴に呼ばれた。
「佐久穂、ちょっと来い」
「はい、鯉伴様」
 我に返り鯉伴の元へよると、ズイッと亭主の前に差し出される。亭主は、ジーッと私を頭の天辺から爪先まで品定めした後、奥に引っ込んでしまった。
 訳が分からず首を傾げていると、色鮮やかな振袖一式を持って現れた。濃淡の紅が美しい着物だ。帯は紺に金の蝶刺繍がされている。
「よし、佐久穂それを着てみな」
「は?」
 一体何の冗談だと思い聞き返せば、鯉伴は事なげもなく言ってのけた。
「それを試着しろって言ってんだ。グスグスしてっとひん剥くぞ」
 ニイッと笑みを浮かべて手をワキワキと動かす鯉伴に、私はゾワッと悪寒を感じ振袖を受け取ると試着室へと入り着物へ着替えたのだった。

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