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少女、過労で倒れる。 [ 78/259 ]


 ぬらりひょんが、ヒョッコリと台所に顔を出すと顔色の悪い少女がご飯を作っていた。その手は、危なっかしい。
「瑞」
 突然掛けられ声に、驚きのあまりビクッと体を大きく揺らした。器から手を離し落とし足にぶつかると思ったが、ぬらりひょんは慌ててそれを受け止め難を逃れる。
「ふぅ…危ないのぉ」
「ごめんなさい。驚いてしまって」
 困ったような笑みを浮かべると、ぬらりひょんは顔を顰める。多分疲労の色が顔に濃く出ているのだろう。
 目元には隈が出来ており、顔色はあまり宜しくないのは自覚している。
「ちゃんと寝ておるのか」
「ええ、それなりには……」
 視線を彷徨わせる私に、ぬらりひょんは眉を寄せた。私を横抱きにすると、スタスタと無言で台所を出る。
「あ、あの…降ろして下さい。料理が」
「黙ってろ」
 ぬらりひょんは、ピシャリと叱り私が利用している部屋に連れ込んだ後、手際よく褥を作り寝かせた。
「そんな顔色で動き回るな。お前は休め」
「でも、ご飯……」
「飯の心配はせんで良い。ちゃんと作ってやる」
 ぬらりひょんの言葉に、私は目を丸くし首を傾げた。
「妖様、ご飯作れましたっけ?」
「遠野へ行った時に覚えた」
 ああ、なるほど。遠野では、たしか持ち回りになっていたはずだ。リクオも遠野の経験が、牛鬼と大天狗との稽古で役に立っていた。
「だから安心して休め。お前が、倒れりゃ九重や桜らが心配する」
「……はい」
 猫又にも言われたが、ぬらりひょんのように行動を起こされることはなかった。
「妖様、何か用事があって来られたのではありませんか?」
「ん? まあな、じゃが大した用じゃねぇ。ゆっくり寝ろ。回復したらワシを構え」
 ドンッと偉そうなことを宣うぬらりひょんに、私は彼らしくて思わず笑ってしまう。
「じゃあ、お言葉に甘えて休ませて頂きますね」
 私が寝るまでの間、彼は私の頭をずっと撫でていた。


 私が寝入った後、妻戸から顔を覗かせる子供が二人。ジィイッと熱い視線を送る二人に、ぬらりひょんは手を止め腰を上げた。
「よぉ、久しぶりじゃのぉガキんちょ共」
「ガキじゃないもん」
 キッとぬらりひょんを睨みつける九重とは対照的に、九重の後ろに隠れる桜は彼女の背中に顔を埋めているため表情は分からない。
「お前らの母さんは、さっき寝たばかりじゃ。そっとしておいてやれ」
「ママどこかわるいの?」
 泣きそうな声で質問する桜に、ぬらりひょんはグシャグシャと頭を撫でてやる。
「単なる過労と寝不足だ。寝たら直ぐ元気になる」
 ぬらりひょんの言葉に桜と九重はホッとした様子を浮かべた。
「さて、ワシは飯でも作るかのぉ」
「あたちもてつだう」
 ハイッと挙手した九重が元気よく叫ぶと、桜もおずおずと手伝いを買って出た。
「そうかそうか、よしよし良い子じゃな」
「しゃくら、いいこ?」
「おう」
「あたちは?」
「九重も良い子じゃ」
 褒められたことが嬉しかったのか、ニコォと彼女達は笑う。
「とーしゃまは、どうしてしゃくらのとーしゃまじゃないの?」
「は?」
 突拍子もなくぶつけられた桜の疑問に、ぬらりひょんはワケが分からず間抜けな返事を返す。
 桜は、それに気づかないのか尚も言い募る。
「ママは、とーしゃまだけどしゃくらをしってるとーしゃまじゃないっていった。しゃくらのことわすれちゃったの?」
 うるっと目を潤ませる桜に、ぬらりひょんは首を傾げる。彼女と出会ったのは、あの時が初めてでそれ以前に出会った記憶はない。
 どうやら彼女には、大きな秘密があるようだ。ぬらりひょんは、腰を下ろし桜と目線を合わせて頭を撫でた。
「桜、ワシはお前を知っとる父様じゃないかもしれん。じゃが、父様になることは出来る。それじゃあダメか?」
「しゃくらのことわすれても、しゃくらのとーしゃまってこと?」
「そうじゃ」
「とーしゃま」
 ポスンッとぬらりひょんの胸に懐く桜を抱きとめると、九重が羨ましそうに二人を見ていた。
「九重も、父様が欲しいじゃろう」
 視線をキョロキョロと彷徨わせた後、九重はコクンと小さく頷きキュッとぬらりひょんの袖を握った。
「父様と言ってみい」
「とーしゃま」
「おお、良い子じゃ。それじゃあ、飯を作りに行くかのぉ」
 九重と桜を抱き上げると、ぬらりひょんは台所へと篭った。大雑把な味付けは、彼女の料理に慣れた妖怪たちには苦痛で不評が上がったのは言うまでもない。

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