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鴆、薬膳堂を訪れる [ 77/259 ]


 水疱瘡にかかった幼子を預かってからというもの、噂が噂を呼び屋敷に人が押し寄せるようになった。
 家事と病人の世話と薬の精製を一人でこなすのは無理があった。
「藍、患者を受け入れるのはもう止めろ。お前の体が持たねぇぞ」
 眉を寄せて渋い顔をする猫又に、でも…と言い募ろうとすると言葉を遮られピシャリと怒られた。
「アホか、お前が倒れたらもともこうもねぇ。桜や九重だって、お前の体を心配している」
「……そうね。分かったわ。今の患者さんが回復に向かったら、また受け入れの体制を取る。それなら良いでしょう?」
「ちゃんと休みも取るならな」
 キッチリ釘を刺された私は、渋い顔になる。そんなに私は、信用がないのか。恨みがましく睨みつけると、
「お前は、放っておくと無理しかねないからな。グダグダ文句を言うならチビ共をつけるぞ」
と脅された。桜と九重を寄こすなんて卑怯だ。私が、彼らに甘いのを知っている上でそんなことを言うのだから、本当に根性が悪い。
 パンッと頬を軽く叩き、気合を入れ直し私は空いた時間を利用して昼食作りに勤しんだ。


 妖怪が人に姿を隠すことなく、普通に部屋の中を行き来しているのは、恐らくどこを探してもここだけだろう。
「……総大将。あんたが、言ってた奴がいるのはここか?」
「ああ、そうじゃが。何か人がいっぱいおるのぉ」
 人と言っても子供ばかりで、皆病に掛かっている。それを小妖怪達が世話している光景は、鴆の目に異様に映る。
 水が入った桶を手にしトテトテと前を歩いていた小妖怪を捕まえて疑問をぶつけると、
「妖怪なのに人を助けるってどういうことだ?」
「大将とそっち誰だ?」
 見慣れない顔に気づき首を傾げる小妖怪に、ぬらりひょんは自分の下僕だと鴆を紹介した。
「瑞はどうした?」
「姫さんなら、今頃飯の支度でもしてんだろう」
 邪魔だと言いたげに手を振り追い払おうとする彼に、鴆は先ほどの質問の答えを急かした。
「俺の質問は無視か?」
「あ? あれね、別に人間だから助けてるわけじゃない。ここに訪れる怪我人・病人は、全員金づるだ。金払って来てる金づるの面倒を見るのは当たり前だろう」
 キッパリと断言する小妖怪に、鴆は顔を引きつらせる。
「ま、最もオレらの姫さんは金よりも命を優先してぶっ倒れる寸前まで自分を追い詰めてるがな。俺らが、人間のガキ共の面倒を見てるのは瑞の負担を少しでも軽くしてやりたいからだ」
 子供=金づると言い切った後では、真実味が薄く聞こえるがぬらりひょんは本音が後者であることをすぐに悟った。
 彼女が妖怪を家族だと言ったように、彼らの心の拠所になっているのはほんの数日で痛いほど分かる。
「あんたも暇なら手伝ってくれ」
「冗談じゃ……」
「鴆、手伝ってやれ」
 鼻で笑い飛ばそうとしたら、ぬらりひょんがそれを遮り手伝いを命じた。腐っても総大将。命令は絶対である。
 物凄く嫌そうな顔でぬらりひょんを見ると、彼は手で追い払う仕草をみせて言った。
「行って来い。ワシは、瑞のところへ行く」
「は? ちょっ……総大将!!」
 文句の一つでも言ってやろうと思ったら、とっくに姿を消していた。
 ポカンと口を開けて呆然となる鴆に、小妖怪はハァと溜息を吐いた。
「大方、瑞のところへ行ったんだろう。あんたは、こっちだ」
 顎をしゃくり、渡殿の先にある部屋に鴆を案内する。部屋に寝かされた多数の子供の看病を手伝わされた事が切っ掛けで、後に薬鴆堂を立ち上げるのはぬらりひょんが魑魅魍魎の主になった後の事である。

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