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ぬらりひょん風邪を引く [ 72/259 ]


 雪羅の怒りを一身に受けた彼は、案の定と言うべきか風邪を引いてしまった。
「あの程度で風邪を引く軟弱者なんて放っておけば良いのよ」
 迎えに来た相手に対して、辛らつな毒を吐く雪羅に私は乾いた笑みしか出来なかった。
 あれに耐えられるのは、耐性がついている烏天狗くらいだろう。
「そんな風に言ったら可哀想ですよ。雪羅さんのこと凄く心配していたんですから、ね?」
「……この馬鹿大将なんて庇う価値もないと思うけど、瑞がそこまで言うなら仕方が無いわね」
 高熱を出して云々と唸っているぬらりひょんを睨み付けた後、看病を私に押し付け出て行った。
 私の記憶では、雪羅は総大将LOVEだったような気がしたのだが勘違いだったのだろうか。
 前髪を払い、手拭を水に浸し固く絞ったものをぬらりひょんの額に乗せる。
「目を、覚まされたんですね。何か食べれそうですか?」
 ぼんやりと視線を彷徨わせるぬらりひょんに声を掛けると、喉が痛いのか声が掠れていて何を言っているのか聞き取れない。
「お水ですか?」
 そう聞き返すと、彼はコクンと頷いた。私は、彼の背中に手を差し入れ体をゆっくりと起こす。
 口元に水の入った湯のみを持っていくと、両手を沿えコクコクと飲み始めた。
 一通り飲み終えると、湯飲みを置きモゾモゾと褥の中に潜り込もうとしている。
「少しでも良いので食べないと直りませんよ」
「……いらん」
 ボソッと呟かれた言葉に、私は相当参っているのが伺えた。
「冷たいものなら食べれませんか? 甘いものもダメですか?」
 喉がヒリヒリして痛いのか、顔を顰めている。うーん、これは手強そうだ。
「……少しだけなら食べる」
 諦めかけた時、ぬらりひょんがポツリと食べる意思を見せてくれた。
「じゃあ、取りに行ってきますね」
 私は、いそいそと部屋を出て台所へと向かった。


 冷蔵庫モドキから林檎寒天を取出し、一緒に白湯と薬もお盆に載せてぬらりひょんが休んでいる部屋へと戻る。
「失礼します」
 妻戸を引き部屋の中に入り、褥に寝ているぬらりひょんに声を掛ける。瞼が震え熱に浮かされた金色の目が、私を捉えた。
「林檎の寒天を持ってきたので食べて下さい」
 ぬらりひょんの体を起こすのを手伝い、茶碗蒸しの器に入った林檎寒天を手渡すと眉を潜めた。
「……食いもんか?」
 見たことがない食べ物にどう反応したら良いのか分からないと言った様子の彼に、私は匙で林檎寒天を掬いぬらりひょんの口元に持っていった。
「つるんとしてて食べやすいですから」
 クンッと匂いを嗅いだ後、ぬらりひょんは恐る恐ると言った風にパクンッとそれを口に含んだ。
 寒天の量を調節し、半固まりに仕上げてあるので触感はゼリーに近い。果肉入りなので、食べやすくはなっている。
「うまい」
 林檎寒天は、ぬらりひょんの舌にも及第点を貰えたようだ。
「食べれそうなら食べて下さいませ」
 パクパクと口に運びあっと言う間に茶碗蒸しの容器の中は空っぽになった。
「さ、次は薬ですよ」
 先日摘んだセネガで作った風邪薬をぬらりひょんに手渡すとプイッと顔を背けられた。
「お薬飲まないと辛いままですよ」
「嫌じゃ」
「ダメです。飲んで下さい」
「不味いのは嫌じゃ」
 嫌の一点張りをするぬらりひょんに、私はどこの子供だと呆れかえる。400年先の彼も子供っぽいところはあったけれど、ここまで酷くはなかった。
「我侭言わないで飲みなさい」
 カサカサと包みを解き、ぬらりひょんの口元に持っていく。
「絶対飲まねぇ!」
 口をへの字にして拒絶する彼に、私はプチッと堪忍袋の緒が切れた。
 私は、ぬらりひょんに飲ませるはずだった薬をサーッと口に流し白湯を口に含む。
 彼の鼻を掴みそのまま口移しで薬を強引に飲ませた。流し込まれた薬の苦味が、口いっぱいに広がり彼は目尻に涙を溜めている。
「プハッ、たく……小さな子供じゃないんですから薬くらい一人で飲んで下さい。吐き出したら許しませんから」
 しっかりと釘を刺すと、観念したのか漸く彼はゴクリと薬を飲み込んだ。
「なんつーことしやがる」
「薬を飲まないって駄々捏ねるから飲ませただけですが、何か?」
 ニッコリと笑って見せれば、ぬらりひょんはグッと詰まった後、何も言い返せず不貞寝とばかりに褥を頭から被ってしまった。
 薬を飲んだのだ。これで安静にしていれば、治りも早いだろう。
「また、後で様子を見に来ます。大人しく寝てて下さいね」
「ワシは、子供じゃねー」
 ブツブツと文句を言うぬらりひょんの言葉を黙殺し、私は滞った家事をするべく部屋を後にしたのだった。

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