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共に居たいと願う先は [ 66/259 ]


 目が覚めると、小さな子供たちが顔を覗き込んでいた。
「あ、おきた」
「かーしゃま、よんでくる」
「しゃくらもいく」
「しゃくらがきたら、おねーしゃんひとりになっちゃう」
 桃色の髪をした幼女が、へにょんと顔を歪ませるともう一人の幼女がヨシヨシと頭を撫でて言った。
「しゃくらが、おねーしゃんのそばにいてあげて。すぐもどるから、ね?」
「あい」
 渋々だが云うことを聞き入れた幼女は、寝ている女の傍までやってきた。
「いたいところない?」
「あんた……うっ…」
 体を起こそうとして、腹に激痛が走り褥に逆戻りした。
「つららねーたん!! しんじゃやだぁー」
 ブワッと目に涙を溜めたかと思うと、大声を上げて泣き出した。
 一体何だというのだ。そもそも、自分はつららという名前じゃない。
「ちょっと、泣き止みなさいよ」
「うえぇんー、ヤダヤダ……しんじゃやだぁあ」
 ギャンギャンと泣き喚く幼女に、女は眉を潜めた。凄まじい泣き声は、傷に響く。
「死なないわよ! もう、いい加減に泣き止みなさい」
 あまりにも五月蝿いので幼女を一喝したら、今度は怒られたと泣き出した。本当に勘弁して欲しい。
「桜、泣いたらお姉さんが困っちゃうでしょう」
「ママァー」
 スッと開いた襖に立っていたのは、まだ少女といえる女の子だった。桜と呼ばれた幼女は、立ち上がりビタンッと少女の足に引っ付いている。
「お加減は、如何ですか?」
 桜を抱き上げあやしながら傷の具合を聞いてくる彼女を見て、女は眉を寄せた。明らかに少女は人間であり、その腕に抱かれているのは妖だ。
「それが、五月蝿くて適わないわ」
「ごめんなさい。貴女をとっても心配していたから、許してあげて下さいな」
 苦笑を浮かべる少女に、女は辺りを見渡した。
「ここは?」
「私が、居候させて貰っているお家です。薬草を摘みに行った帰りに、貴女が倒れていたので連れ帰りました。お名前を伺っても宜しいですか?」
「……人に名前を尋ねる前に名乗りなさいよ」
 素直に名前を教えてやるつもりもなかったのでそう返したら、彼女はビシッと固まった。
 視線を宙に彷徨わせた後、彼女は小さな声で名前を言った。
「……瑞(すい)と申します」
 沈黙の後に名乗った名前は、彼女の本名かどうか不明だが助けられたことには変わりないので一応名前を名乗っておく。
「私は、雪羅よ。あんた、どうみても人の子よね。子を生むにしても年齢的に無理があるわ。妖が母と慕うなんて、あんた何者?」
「拾ったんです」
「はぁ?」
 ニッコリと拾ったと宣う彼女に、雪羅は唖然とする。普通は、妖怪を見れば畏れをなし避けて通るだろう。
 唖然とする雪羅に、彼女はクツクツと笑みを浮かべていた。
「おい、薬箱持ってきたぞ」
「猫又さん、ありがとう御座います」
 巨大な白蛇と共に現れた猫又に、雪羅はまたしても唖然とする。
「あんた、人でしょう? 何で怖がらないわけ!? ていうか、妖怪と人が一緒にいるってあり得ない。おかしいわよ!!」
 雪羅の絶叫に彼女は、キョトンと目を丸くしている。
「……あんたに関係ねーだろう」
 不機嫌そうに鼻を鳴らす猫又に、少女は苦笑する。
「血の繋がりはなくても家族ですから一緒に居たいんです」
 思いもよらなかった答えに、雪羅は言葉を失う。妖と人が共存したいと考える自分の上司と考え方が似ている。
「雪羅さん、お腹の傷の具合を見せて下さいね。桜、九重と遊んでらっしゃい。白雪も行っておいで」
 桜の背中を軽く叩き、白蛇に託すと彼(彼女?)は頭をコクコクと縦に振りパクッと桜の襟を食むとそのまま持ち上げて部屋を退出して行った。
 まるで猫の子を運ぶ母親猫のような仕草に、唖然としているのはやはり雪羅だけで、猫又も目の前の少女も慣れた光景のようで驚いた様子はない。
「さあ、診察を始めましょうか」
 良い笑顔で宣言され、雪羅は人に怪我の治療をされるという体験をする羽目になったのだった。

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