小説 | ナノ

少女、美女を拾う [ 65/259 ]


 私の日課になりつつある薬草摘みに、最近は猫又も文句を言いつつも付き合ってくれるようになった。
「九重、桜のこと頼むわね」
「わかった」
「桜、お姉ちゃんの言うことをよく聞くのよ」
「あい」
 コクンと頭を縦に振る桜にいい子だと頭を撫でる。九重が、ジィッと私を見上げているのに気づき彼女の頭を撫でてやると嬉しそうに笑った。
「小鬼さん、桜たちのことよろしくお願いします」
「おうよ!」
 桜と九重に行ってきますのキスをすると、彼女達も私の頬に返してくれる。習慣化しつつあるキスにも慣れたものだ。
「ご飯は、棚に閉まってあるのでお昼になったら食べて下さいね。知らない人が来ても玄関を開けちゃダメですよ。それから……」
 まだ続きそうな私の言葉を猫又がサクッと遮った。
「毎日毎日いい加減にしろ! 耳にタコが出来る。心配なのは分かるが、過保護過ぎるぞお前」
 過保護だと言われた私は、グッと言葉につまり言い返せない。
「まあまあ、早いところ行って帰ってきてくれよ。俺らでチビ共の面倒を見るのも限界があるからな」
 桃色の球体をした鬼が、コロコロと転がりながら茶化してくる。私の帰りが遅くなると、桜が泣き出しそれにつられて九重も泣き出すのだ。
 ギャンギャンと怪獣のように泣く二人をあやすが、一向に泣き止まずぐったりと疲労困憊した彼らの姿を目にしたのは一度や二度じゃない。
「はい、お昼過ぎには戻ってきますね」
 桜達に送り出された私は、猫又を伴って薬草摘みへと出かけた。


 廃墟から十分ほど歩いた先にある小さな丘に私達は来ていた。背中に背負っていた籠を下ろし、辺りを見渡すと早速セネガを発見した。
「あ、セネガが生えてますよ」
「セネガは、風邪薬になるからなぁ。この時期は、需要も増えるし摘んでおくか」
 プツプツとセネガを手で摘み籠の中へ収めていく。
「おい、葱も生えてるぞ」
 猫又の声がする方へ顔を向けると白く太い茎の白葱が沢山生えている。
「まあ、美味しそうな葱ですね! 今晩は、葱料理にしましょう」
 夕飯ゲットと喜ぶ私に、猫又の呆れたといわんばかりに白い視線が飛んできた。
「白雪の食意地は、お前から来ているんだな」
 ペットは飼い主に似ると言いたげな猫又に私は失礼なと膨れてみせた。
「おかずは多いに越したことありませんよ」
「葱も生薬の一つだぞ。それをおかずとしか見れないのは、薬師としてどうなんだ」
「美味しく召し上がれて、且つその効能も恩恵を受けることができるなんて一石二鳥じゃないですか。風邪の予防にもなりますし、解熱・鎮痛剤の効果もありますから本当万能薬ですよね」
「……結局食べることが前提なんじゃねーか」
「何言ってるんですか。全ては食にあり、ですよ。いくら良薬があっても、普段の食生活がダメダメだったら意味はありません」
 ハァと溜息を吐く猫又に反論すると、彼は円らな瞳を大きく見開いている。うーん、私の言葉がそんなに意外だったのだろうか。
「確かに一理あるな」
「でしょう。さ、桜たちが泣く前に帰れるように薬草摘みを急ぎましょう」
 私は、猫又と一緒に薬草摘みに明け暮れた。


「ふう、こんなものですかね?」
 籠いっぱいになった薬草を眺めながら呟くと、猫又はそうだなと答える。
「じゃあ、帰りましょうか?」
 私は、籠を背負い猫又と一緒に丘を歩いていると血の匂いがして足を止めた。
「猫又さん、血の匂いがしませんか?」
「ああ、これだけ匂いがハッキリしているとなると結構な出血量だな」
 顔を顰める猫又に、私はどこから香るのか辺りを見渡すと一角だけ草が倒れている場所を発見した。
 私は籠を地面に下ろし血の匂いがする方向へ歩いてゆく。
「おい、あんまり関わらない方がいい」
「でも、放っておけません」
 地面に倒れていたのは、見知った顔で私は唖然とした。
「えっ、氷麗ちゃん? 酷い…」
 夥しい血が、地面を赤く染めている。ザックリと刃物で切られた痕がある。
「猫又さん! 止血をするの手伝って下さい」
 私はビリッと袖を破り包帯を作る。もう片方の袖を破り傷口に当て簡易包帯でぐるぐる巻きにして止血する。
「白雪、出てきて」
 ニョロッと共衿から顔を出した白雪に、私は大きくなるようにお願いした。
 彼(彼女?)は、ボトッと地面に落ちると一瞬で大きくなる。
「私は、彼女を背負うから白雪は籠を持って来て」
 コクコクと頭を縦に振りパクッと籠の端を口に挟むと蛇足でスルスルと廃墟へ向かって動き出す。
 私も氷麗に酷似した彼女を背負い出来るだけ振動を与えないように早歩きで家路を急いだ。

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