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少女、娘がひとり出来ました [ 63/259 ]


 案の定と言うべきか、桜の鳴き声に私は苦笑する。九重もつられて泣いているので、桜が二人いるようだ。
「二人ともどうしたの?」
「ママァ〜」
 両手を伸ばしてくる桜を抱き上げる。九重は、ワンワンと泣いているだけで手を伸ばそうともしない。
 もしかしたら、甘え方を知らないのかもしれない。膝を下ろし、もう片方の手で九重を抱き寄せる。
「九重もどうしたの?」
「ふぇーん…しゃくらが…」
 えぐえぐと激しく泣きじゃくる九重に、私は頭を撫でてやる。
「桜をあやしてくれてたのよね。ありがとう。お姉ちゃんがいつまでも泣いてると、妹が不安にがってまた泣いちゃうよ?」
「おねーちゃん?」
「そう、九重は桜のお姉ちゃんになってね」
 聞きなれない言葉に、九重は目をパチクリとさせる。桜は、そんな九重を見て姉が出来たことを純粋に喜んだ。
「ここねーたん」
 九重と言えない桜ならではのあだ名に少し笑ってしまう。
「しゃくらが、あたちのいもーと?」
「そうよ」
「じゃあ、藍はあたちのかーしゃま?」
「九重がそう思ってくれるなら嬉しいな」
 ニッコリと笑うと、九重は恥ずかしそうに顔を赤らめ小さな声でかーしゃまと呼んでくれた。
 か、可愛すぎる!! 思わず腕の中にいた二人をギューッと抱きしめていると、ニュルッと白雪が巻きついてくる。
「ちらゆきもだって」
 ふりふりと頭を左右に振る白雪の体にスリッと擦り寄る。スベスベした体は、冷たくて気持ち良かった。
「夜になる前に、ここを掃除しちゃいましょう。明るいうちに寝床を確保しないとね」
「「あい」」
 コクッと頷く二人と一匹に私は、荒れた部屋をどうリフォームしようかと頭の中で算段を立てるのだった。


 食材を持ち寄った家鳴りたちに、部屋の掃除要請を行い手分けして作業を開始する。
 傷みの酷い場所は別の日に修繕することにし、比較的傷みの少ない場所を重点的に掃除した。
 妻戸がついた部屋に寝床を作り、広間には痛んだ御簾を取り外し別のところから持ってきた御簾を付け直す。
「ふぅ、今日はこんなものかしら?」
 生活スペースは確保出来たので、ひとまずは良しとする。
「結構綺麗になるもんだな」
 猫又がペロペロと手を舐めながら感慨深くいうと、
「普段から綺麗にしてたらもっと楽だったよなぁ」
と、桃色の球体をした小鬼がぼやく。妖怪に掃除という概念は無いのか、埃が溜まっても気にしないのだから凄い。
「みんな汚れちゃいましたね。お風呂を沸かして下さい。私は、軽く体を拭いてご飯を作ります」
「りょーかい!」
 小鬼たちに桜と九重そして白雪を任せ、私は先ほど見つけた着物から一枚失敬して手拭を持って台所へ向かう。
 台所で浴衣を脱ぎ水に浸して絞った手拭を体にあて拭いた。身支度を整え、汚れ物を廊下へ出す。後で風呂を頂く予定ではあるが、体を拭くと少しサッパリする。
「さてと、ご飯を作りますか!」
 襷掛けをして、私は早速ご飯作りに取り掛かったのだった。


 昔の人は、本当に大変な作業をよくこなせたと思う。文明器機に慣れ親しんでいた私にしてみれば勝手が違い四苦八苦しながらの料理となった。
 いつも以上に時間が掛かってしまった。味見をしたところ、普段使わない調理具のため、味に深みが出たりしていて美味しく仕上がったと思う。
「後は、盛り付けなんだけどね。うーん…どうしよう」
 一つ一つ盛り付けるとなると結構な時間が掛かって冷めてしまう可能性がある。奴良邸に居たときは、若菜を中心に女妖怪たちが率先して配膳をしていたからそんなことはなかったのだけど、今は自分しかいないのだ。
「広間に持っていて、よそえば良いかな」
 私は、料理の乗った皿を持ち広間へと向かう。途中で出会った小妖怪たちに食事が出来たことを伝え、残りの料理を持ってくるように言うと彼らは目を輝かせて手伝ってくれた。
 料理を並べていると、風呂から上がった桜たちが広間に入ってくる。
「あれ、その着物どうしたの?」
「ねこたんがくれたの」
 九重の腕に抱かれている猫又が、尻尾を軽く揺らしながら言った。
「ここに住んでたガキの着物を渡してやっただけさ」
「猫又さん、ありがとう。桜、九重おいで。お着物直そうね」
 自分で着たのか、合わせも帯もぐちゃぐちゃだ。二人を呼び着付け直してやる。視界の端で白雪が、ジーッとご飯を眺めていることに気づき私は釘を刺した。
「白雪、勝手に食べちゃダメだからね」
 私の言葉にショックを受けた彼(彼女?)は、シオシオと頭を床に垂らし落ち込んでいる。
 本当に食意地が張っているというか、食に執着しているというか、可愛いのだけど少し困る。
「桜、みんなにご飯をよそいで上げて。九重は、お味噌汁をお願いね。白雪、元の大きさに戻ってこっちにおいで。もう少しで食べれるから後ちょっと我慢してね」
 私たちは、小妖怪たちにご飯やおかずを分配し全員に配膳が終わると私の声で食事を始めた。
 この日を境に廃墟でにぎやかな食事風景が見られるようになり、噂が噂を呼び稀代の陰陽師や妖怪の主が通うのはもう少し先の話となる。

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