小説 | ナノ

時は平安、少女家捜しをする。 [ 62/259 ]


 目を覚ますと、荒廃したとある屋敷に居た。腕の中には桜がおり、私の傍にちょこんと九重が座っていた。
「白雪いる?」
 足にしがみ付いてた白雪が体を起こしコクコクと頷いている。状況から考えて、九重が雉鶏精に間違いないだろう。彼女の感情の揺れによって引き起こされるようだ。
「一体、ここはどこだろう?」
 むぅ、と唸る私に九重は首を傾げて言った。
「さあ? ちらない」
「うん、そうだよね。桜は、気絶してるし。困ったな」
 居場所も時代も分からなければ対処のしようがない。九重と桜だけを置いて、散策するのも怖い。
 思わずジッと白雪を見てしまった。もし、白雪が大蛇の姿を取れば桜たちを襲おうと考える輩は減るだろう。
「白雪、大きくなれる?」
 コクンと頷いた白雪は、一瞬のうちに体を大きく変化させた。
「私が戻ってくるまで桜と九重を守って欲しいの」
 心得たといわんばかりに、頭を縦に振る白雪に腕の中で眠る桜を預けた。
「九重、桜と一緒に少しの間待ってて。辺りの様子を見てくるわ」
「はなれるのヤダ! あたちもいっしょにいく」
 ギュッと袖を掴み駄々を捏ねる九重に、私はやんわりと手を外させた。
「九重は、桜と一緒にお留守番して。お願い」
「ヤダ! 藍はいっしょにいてくれるっていった」
「九重を置いてどこにも行かないわ。辺りを散策したら、ちゃんと戻ってくる。ご飯も必要でしょう?」
 目に涙をいっぱい溜めてギュッと唇を噛み締める九重に、私は頬にキスをした。
「いってきます。九重もしてくれる?」
 彼女の前に頬を差し出すと、おずおずとしてくれた。ふわりと笑みが零れる。
 九重の頭を軽く撫で、腰を上げたらゴスッと背中に衝撃が走った。
 思わず前のめりになる私に、白雪はグリグリと頭を押し付けてくる。
「白雪、なぁに?」
 意味が分からず問い掛けると、ガーンッとショックを受けたようにシオシオと床に頭を垂れた。
「ちらゆきもしてほしいって」
 九重の言葉に私は、納得し白雪を見ると期待の眼差しを向けられた。蛇なのに表情が豊かだと思う。
 白雪の頬にキスを落とし、頭を撫でてやる。私は、今度こそその場を後にした。


 ぐるりと廃墟を見て回る。ところどころ傷んではいるが、掃除をすれば使えそうだ。
 荷物置き場らしき部屋を見つけ、ガラリと開けると埃が薄く被っているものの値が張りそうなものを見つけた。
 琴や双六、貝合わせなどが出てきた。葛籠を開けると、中に入っていたのは十二単だ。それも何枚もある。他にも装飾品や鏡といったものまである。
「これを綺麗にして売れば、暫く暮らしていけそうね。後は、食料をどうするかよね」
 私は台所へ移動し中を覗くと、やはりここも荒れている。しかし、比較的ものは綺麗なままなのでまだ使えそうだ。
「ん?」
 目の前を横切った何かにつられて私も目で追いかけると、十センチくらいの小さな鬼と目がかち合った。
「家鳴り?」
 ビクッと小鬼の体が大きく揺れる。どうやら当りのようだ。私は、しゃがみこんで小鬼に話しかける。
「驚かせてごめんなさい。えっと、君はここに住んでる子かな?」
 私の態度がおかしかったのか、マジマジと凝視してくる。普通、妖怪に会ったら驚くなりするだろうが奴良組に属していると体性が付いてしまう。
「キュワァ」
 肯定するように声を上げる家鳴りに、
「急にお邪魔して驚いたよね。ちょっとお家に帰れなくて、暫くここに置いて欲しいの。食材があれば、ご飯も作るし。ダメかしら?」
 家鳴りは円らな瞳をパチパチ瞬かせた後、ピューッと走り去ってしまった。
 交渉決裂かと肩を落とした私だったが、家鳴りが別の仲間を連れて戻ってきた。
 全部で十数匹いる。家鳴りだけでなく小さな妖怪達が集まっている。俗に言う雑鬼という奴か。
「こんにちは、私は藍って言うの。君達もここの家の子? 家に帰る目処が立つまでここに住みたいんだけど良いかな?」
 私の言葉に、体が桃色の丸い形をした鬼が問い掛けた。
「住む代わりに飯を作ってくれるって本当か?」
「え、ええ…食材と調味料があればだけど」
 私の答えに、彼らはまた相談し始めた。口々にどうする? どうする? と言い合っている。
 話が纏まったのか、今度は尻尾が二つに分かれた猫が言った。
「住むのはお前だけか?」
「私の娘達が二人とペットが一匹よ」
「お前、若そうに見えて子持ちなんだな。分かった。住むのは許可してやる。その代わり、ご飯作ってくれ」
 若そうに見えてと言われちょっと複雑な気持ちになった。十分若いのだが、彼らに言っても無駄と悟り取敢えず滞在許可は取れたので良しとする。
「飯って何が食えるんだ?」
「うーん、材料によりけりです。お米とか野菜とかありませんか? 後、塩などの調味料も欲しいです」
 そう答えると、また相談し始めた。本当に相談するのが好きだな、彼らは。
「じゃあ、欲しいものを言え。用意する」
「取敢えず、お米とお野菜。何でも構いません。お魚とかあると尚良いですね。調味料は、味噌・塩・醤油・砂糖・お酒をお願いします」
「分かった」
 欲しいものを告げると、彼らはコクンと頷き散り散りにどこかへ行ってしまった。
 取敢えず、食料確保は出来たようだ。私は、ひとまず桜たちのところに戻ることにした。

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