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少女、おさんどさんになる。 [ 60/259 ]


 旅行2日目、神の島と名高い久高島へやって来ました。とても長閑で、まるでこの島だけが別世界に切り離された感じがする。
「諸君、早速雉鶏精探しをするぞ!」
 意気揚々と高らかに宣言する清継に、私は待ったを掛ける。
「久高島は、立ち入り禁止をしている場所があることで有名です。それに、独特の神事も行ってます。勝手に動き回っては、村民の皆様にご迷惑を掛けますので、くれぐれも勝手な行動をしちゃダメですよ」
「いや、しかしだね」
「清継君」
「妖怪が……」
「怒りますよ」
「……は、はい」
 清継が暴走する前に釘をさすことに成功した私を、周りは良くやったと褒め称える。
「流石藍ちゃん! 今回の旅行は、思っていたより普通に過ごせるかも♪」
 至極嬉しそうに話す巻に、私は苦笑を浮かべる。私が、清十字怪奇探偵団に入部する前から清継の暴走っぷりには頭を悩ませていたのだろう。
「折角、雉鶏精に会いに沖縄の離島まで来たのに……いっそうのこと夜に忍び込むか」
 諦め切れないかブツブツと物騒極まりないことを宣う清継に、
「そんな事したら、正座一時間させますよ」
と、すかさず突っ込むと彼は慌てたように首を横に振り取り繕うように誤魔化している。夜になった後、不振な行動に出ないか注意が必要だ。
「ねぇ、ガイドさんが島を案内してくれるって。行こう」
 カナに手を引かれ、私は久高島のガイドをしてくれる村民のお姉さんの元へと足を運んだ。


 島の歴史や神事、そして立ち入り禁止地区などを聞きながら案内して貰った私達は、今一番切実な危機に直面していた。
「え? 食事出ないんですか!?」
 宿=食事が付いているという構図がある清継は、目をパチクリさせている。
「食事処で済ませるか、自分達で作るかになりますね」
 唖然とする清継だったが、復活するのも早かった。
「じゃ、じゃあその食事処へ案内して貰えませんか?」
「もう、この時間だと空いてませんよ」
「そこ以外に食事が取れる場所ってありますか?」
「ありませんね」
 キッパリと答えるガイドのお姉さんに、清継はガクッと肩を落としている。夕方の17時だ。日が高かろうが、この島では当たり前の光景なのだろう。
「あの……この辺りにスーパーとかありますか?」
「売店ならありますよ。時間的に厳しいですけど、案内しましょうか?」
「はい、助かります。」
 案内を頼む私に、鳥居がピンときたのか手を叩いて言った。
「藍ちゃん、ご飯作ってくれるんだね!」
 そこは『皆で作ろう』にならないのか。いや、まあ良いんだけどね。食事が出ないのなら、自分で作ればいいだけのこと。材料と調味料・調理器具があれば出来る。
「ええ、まあそんなところです。鳥居さん達は、先に戻って調理器具を借りれるようにして貰えますか? 男性陣は、私と一緒に買出しです。夕飯と朝食の分を買うので荷物持ちお願いしますね」
 テキパキと指示を出した後、私は男性陣を引きつれ島一番の品揃えを誇る売店へと買い物へ出かけたのだった。
 歩くこと数分。萎びた売店を見つけた。うーん、見る限り閉まっているのではなかろうか。
 困ったと顔を曇らせていると、ガイドのお姉さんがバンバンッとドアを叩いて中の人を呼んでいる。
「ばぁちん、店開けてくれねーらん??こーむんしちゃいのさい」
「くんぐとーる時間んかいちゃーさびたが」
「レストラン閉まっちょるから、わーたーでメェー作るってあびてぃるぬ。材料売ってくれねーらんかねぇ」
 中から出てきた老年の女性が、私を一瞥した後、顎をしゃくった。
「入りよーさい」
「お、お邪魔します」
 二人の会話はサッパリ分からなかったが、最後の言葉は何となく分かる。入れと言っているのだろう。
 中に入ると、所狭しと日用雑貨が並んでいる。その近くに食品も並んでいた。肉と野菜、基本的な調味料を買い込みお金を払いお礼を言った。
「本当にありがとう御座いました」
「気をつけて帰りよーさい」
 ニコッと笑みを浮かべて外まで送って貰った私達は、ガイドのお姉さんにお礼を言い分かれた。
 食材を持って帰ると、氷麗を中心に借りてきた食器や調理器具に目を輝かせる。
「どうしたんですか、これ」
「わけを話して善意で借りたのよ」
「ありがとう御座います。じゃあ、早速料理に取り掛かりますね」
 食材を台所へ運んで貰い、私は手を洗い調理を開始する。氷麗も手伝うと申し出てくれて、氷麗の手伝いのお陰か比較的に早く料理が出来上がった。
 シンプルな味付けだが、彼らの舌を満足させることは出来たようだ。
 料理を担当した私と氷麗は、後片付けを免除され一足先にお風呂を頂いた。
「桜ー! 浴衣に着替えようね」
 ボーッと外を見つめる桜に、私は声を掛けるが反応がない。
「桜?」
 彼女の顔を覗き込むと、桜は目をパチパチさせた後こう言った。
「ママぁ」
 キュッと抱きついてくる桜に私は背中を擦ってやる。どうしたのか、この島についてからやけに大人しい。
「どうしたの?」
「なんかね。しゃくらのことよんでるの」
 うるっと目を潤ませる桜に、私は首を傾げる。桜を呼ぶ声など聞こえないが、彼女にしか聞こえないものなのかもしれない。
「桜は、呼ばれて怖いと思う?」
「……こわくない。あのね、とってもなつかしいかんじがするの」
「そっか。じゃあ、まず浴衣に着替えようか。少しお外散歩してみる?」
「うん!」
 声が聞こえる方へ散歩するのも悪くはない。もしかしたら、何かあるのかもしれない。
 私は、桜にお揃いの浴衣を着せて散歩に行くと氷麗に託し宿を出たのだった。

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