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続・戻れないように君を壊した3 [ 82/145 ]


 佐久穂のテスト休みを利用して急遽決まった新婚旅行。当の本人は、物凄く嫌そうな顔をしているのに鯉伴以外気付かない。
「二代目、佐久穂様、いってらっしゃいませ」
 ズラッと並ぶ本家妖怪たちの良い笑顔と共に有無を言わさず屋敷を追い出され、佐久穂の文句は自ずと鯉伴へと向く。
「これは、一体どういうことよ」
「……働きすぎなお前を労うために、本家妖怪と若菜が考えたサプライズだ」
「嬉しくない。サプライズなら、お姉ちゃんと二人旅が良かったわ」
 重度のシスコンめっ、と思わなくも無かったが鯉伴は口に出すような愚かなことはしない。
「まあ、良いじゃねぇか。一泊二日、温泉に浸かって美味い飯食ってのんびりしようぜ」
 本家妖怪たちの思惑が子作りとは知らず、佐久穂は渡されたパンフレットに目を通している。
「温泉のスタンプラリーもあるんだ」
 興味を持ったのか、悪かった機嫌も少しばかり回復して鯉伴はホッと安堵の息を漏らした。


 電車とバスを乗り継ぐこと2時間、伊豆半島の温泉地に来ていた。
 彼らが手配してくれた旅館は、幾ら金を掛けたんだと思うくらい豪華な部屋だった。
「勿体無い! 普通の部屋で良いじゃない」
 本家妖怪たちの金銭感覚に眉を潜める佐久穂に、鯉伴は頭を掻いた。
 普通の部屋なんぞ取ろうものなら若菜の逆鱗に触れるし、三代目が生まれるならこれくらいの投資は安いものだと豪語した烏天狗を筆頭に部下一同が言っていたことを彼女は知らない。
「新婚旅行を兼ねてんだ。豪華にしたって罰は当たんねぇよ」
「あ、うっ……」
 鯉伴の言葉に顔を真っ赤にして俯く彼女は、文句なしに可愛い。押し倒したい衝動に駆られるも、今それをしたら佐久穂の機嫌は地を這うように悪くなるだろうし、当分身体を許してもらえない恐れもある。
「一泊しかないんだ。できるだけ沢山の温泉に入りたいんだろう。行こうぜ」
「うん」
 彼女の手を取り部屋から連れ出した。夕飯までの時間を土産店や温泉を巡り、久々に充実した時間を過ごしたのだった。

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