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波乱の映画デートB [ 39/259 ]


「後、1時間くらいあるね。先にチケットだけ買ってくるよ。ここで待っていて」
 首なしが、私達から離れてチケット売り場へと走っていった。
 あの人ごみの中に桜を連れていく勇気はない。休みで考えることは一緒なのか、映画館は結構な賑わいを見せている。
「後1時間もあるのかぁ……。昼食には早いし、どこかでお茶するしかないかな?」
 まさかプリ○ュアを見るつもりはなかったので、上映時間をチェックしてなかった。
「とーしゃまのにおいがする」
 そう言うと、桜は私の手を離れぬらりひょんの匂いがすると言った方向へ走っていく。
「桜? え、ちょっと待って!! 止まりなさい!」
 私の制止などお構い無しに、走る桜を一人にするわけにはいかず追いかける。
 人を上手く避けながら前を走る桜を追いかけるが、人ごみで上手く進めない。
「桜! 桜! 止まって!!」
 彼女の身体を捕まえたときには、折角セットした髪もぐちゃぐちゃになっていた。
「ハァ〜……もう、いきなり走ってどうしたの?」
「とーしゃま!」
 ニコォと嬉しそうに報告する桜に、私はそう言えばぬらりひょんの匂いがすると言っていたことを思い出す。
「桜は、父様を追いかけてきたの?」
「あい」
 コクンと首を縦に振る彼女に、私は膝を折り曲げ目線を合わせてメッと叱る。
「父様を追いかけちゃダメと言いません。でも、急に居なくなったら私も首なしさんもとっても心配します。追いかけたいなら、ちゃんと追いかけたいって言ってね。私も一緒に行ってあげるから」
「……ごめんなしゃい」
 シュンッと気落ちする桜に、私はクシャリと頭を軽く撫でる。ちゃんと反省しているなら良いか。
「桜は、首なしよりワシと一緒に居たかったんじゃろう」
「あ、とーしゃま♪ だっこ」
 突如現れたぬらりひょんに桜は両手を差し出し抱っこを強請る。驚きのあまりビクンッと身体が大きく揺れる。
「何もそんなに驚かんでも良いじゃろうに」
「気配もなく背後に立たれたら誰だって驚きます」
 一般人に気配を察せよなど無理な注文である。ジットリと恨みがましくぬらりひょんを見ると、彼はクツクツと笑みを浮かべている。伊達男は、そんな姿も様になるからムカツク。
「どうせ映画まで時間があるんじゃろう。その間、喫茶店でも入ってワシとカフェーでもしようじゃねーか」
「しゃくら、かふぇーすりゅー」
 ワーイと両手を挙げて喜ぶ桜に、今私は非情に困った顔をしていると思う。首なしに何も言わず桜を追いかけてきたのだ。彼も急に居なくなった私達を探しているに違いない。
「首なしさんに何も言わずに来たので、一度戻らないと……」
「それなら大丈夫じゃ。あやつなら、大体察してるじゃろうて」
「どういう意味ですか?」
 ぬらりひょんの言っている意味が良く分からなくて首を傾げていると、彼はクシャリと私の頭をワシャワシャと撫でた。
「藍よ、もうちっと男心を勉強した方が良いぞ。まあ、今回は分からんで良い」
「???」
 ぬらりひょんは、片腕で桜を抱き上げ私の手を掴むと彼の行きつけである喫茶店へと向かった。

 行きつけの喫茶店で通されたのは何故か外のテラス席。
 桜を膝に乗せたぬらりひょんと向かいには私が座っているわけだが、道を歩く人からの視線がビシビシ感じる。
 居心地が物凄く悪いのは気のせいじゃないと思う。
「中の席の方に変えて貰っても良いですか?」
「何でじゃ?」
「その……視線が気になりまして…」
 美丈夫と美少女のツーショットは様になる。その中に自分が入る勇気はない。特に女の人の視線が、ぬらりひょんに釘付けで嫉妬の眼差しが本当に怖い。
「そうかい? ワシは、全然気にならん。お前の視線だけで十分じゃ」
 恥ずかしいことをサラッと宣うぬらりひょんに、私は頬を赤く染める。だってねぇ、甘い台詞で口説かれるなんて経験ない小娘には刺激強すぎです。
 リクオも結構な誑しだけど、ぬらりひょんは更にそれを上回る。風情を大切にする妖だからなのか、一々彼が言う言葉はくさい台詞が多い。
「ぬらりひょん様は、そうやって女の子の心を掴んでいくんですね」
「なら、ワシに捕まってくれるのか?」
 悔し紛れに言った言葉すら口説き文句へと変えてしまう。羞恥心で死ねる。
「とーしゃま、けーきたべたい」
 桜の催促にぬらりひょんの悪戯めいた口説きは終わって内心助かったと思った。
「ん? ああ、そうじゃな。藍は何が良い?」
「あ、はい……それじゃあ紅茶で」
「それだけで良いのか?」
「お腹空いてませんので」
「そうか。じゃあ、ワシは宇治抹茶ラテにしようかのぉ」
 商品が決まった私達は、傍に居た店員に注文をした。乱入者が現れるまで後3分の出来事である。

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