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波乱の映画デートA [ 38/259 ]


「私の藍が、首なしなんかにぃ……。呪ってやるぅぅうう!!」
 バンバンと畳を叩きながら恨み言を吐く氷麗に、傍を通りかかった海女が彼女を見て首を傾げた。
「雪女は、藍様のところに行かないんでやんすか?」
「は? 藍は、首無しとデートに行ったわよ! ムカツクゥゥウウウ!!!」
「桜も一緒に行ったでありんす。総大将やリクオも藍様のところでありんす。他にも……」
 ツラツラと上げられる妖怪(ほぼ男共)の名前に、次第に氷麗の顔が歪んでいく。
「首なしから藍様を奪還したものは、藍様から熱いベーゼが送られるとか……って人の話は最後まで聞いて行くのが礼儀でありんす」
 物凄い勢いで部屋を飛び出していった氷麗を見送りながら、海女はハァと溜息を吐く。
「本当にこんなことして良いんでありんす?」
 部屋の襖から死角になる位置に立っていたぬらりひょんに、海女は呆れた顔で視線をよこす。
「あれが動けば、周りも動くじゃろう。首なしにだけ良い思いはさせん」
「藍様も年頃の女子。恋の一つや二つして欲しいとはいえ、聊かやりすぎな気もしなくもないでありんす……」
 憂鬱そうに溜息を吐く海女に、ぬらりひょんはニヤッと人の悪い笑みを浮かべて言った。
「そりゃあ、藍次第ってところだろう。ワシも、そろそろ動くか」
 悠然と羽織を翻し廊下を歩くぬらりひょんに、海女はガランとした屋敷に溜息を吐いた。
「世界に組込まれるか、弾かれるか……。藍様、貴女の意思はどこにありんす?」
 藍は、一線を引いて接している。注意して彼女を見ないと分からないくらい自然に隠されて今のところ海女とぬらりひょんくらいしか気付いていない。
 彼女と行動を多くする氷麗やリクオは気付いていない。それだけ巧妙に隠すのが上手いと云うことか。
 藍が、どこの誰であっても海女には関係ない。己が認めたたった一人の主なのだ。二度と離れる気はない。
 ぬらりひょんの提案に乗ったのも、彼女がこの世界で恋情を抱く相手を作れば留まるだろうと考えたからだが、皆に好かれるのは良いことではあるが、その好意が果たして彼女にとって良いものなのかは計り知れない。
 海女は、彼女をこの世界に留めておけるなら相手は誰でも良いのだった。


 浮世絵町駅前のショッピングモールに藍を求め続々と妖が終結していた。
「クッ、藍どこにいるのーっ!!」
 半泣きになりながらも必死で藍を探す氷麗は、人ごみを掻き分けながら血眼になって探していた。
 しかし、彼女どころか首なしも桜も見当たらない。容姿端麗な和装姿の目立つ三人を見つけられないはずはない。
「……首なしの奴、絶対藍をどこかへ隠したんだわっ!! ハッ、藍の貞操が危うい!? 嗚呼、どうしよう襲われてたらー。藍ーっ!」
 一人ブツブツと呟きながら危ない妄想で異次元へ飛ぶ姿は、異様さをかもし出している。
「氷麗、往来で何やってんの。恥ずかしいから止めなよ」
 呆れた顔で暴走する氷麗にリクオが声を掛けた。
「リクオ様!? ハッ、ここにリクオ様が居ると云うことは脱落者1号ですか?」
「物凄く失礼だね、君は。何、その脱落者って?」
 ヒクッと口角を痙攣させながらも、暴走する氷麗に問い掛ける。
「首なしから藍を奪うと、彼女から熱いベーゼが貰えるって海女が言ってました。本家の連中は、藍と首なし達を探しに出払ってますよ!! ああ、私の藍が汚されるぅぅううう!!」
「だから、落ち着けって」
 バコンッと持っていた本で氷麗の頭を叩いたリクオは、ハァと大きな溜息を吐く。
「俺は、そんなこと聞いてないぞ。んでもって氷麗、藍はおめぇのもんじゃねー。俺の所有物だ。勝手に自分のもんにすんな」
 一瞬夜の顔を覗かせたリクオだったが、こうして氷麗と話している間も藍は狙われているのだ。
 一人で探すよりも目の前の少女を利用する手はない。
「氷麗、共同戦線を張らないか? こうしている間も藍の身が危うい」
「リクオ様とですか? 嫌です!」
 藍が絡むと人が変わったように遠慮がない。キッパリと断る氷麗にリクオは彼女の不安を煽った。
「藍を狙う阿呆共に捕まったら押し倒されて孕まされるかもね。僕と違って、妖怪は人間の常識が通じない奴らだよ? 本当に良いの?」
「そ、それは……」
「氷麗と僕だけじゃあとてもじゃないが探すのに時間が掛かる。そこでだ。僕に良い案があるんだけど……」
 リクオは、チョイチョイと手招きし内緒話をするように彼女の耳元で良い案を話す。
「クッ……でもそれしか方法がないなら仕方がありません。人形無線機を使って召集しましょう!」
「分かってくれて嬉しいよ」
 リクオと氷麗は、清継から渡された妖怪人形無線機を使って清十字怪奇探偵団のメンバーに無線を飛ばした。
「「藍が、浮世絵町駅前で迷子になった(の)! お願い!! 皆で探すの手伝って」」
 本人が聞けば、物凄く怒りそうな内容なのだが当人たちは気にすることなく呼びかけている。
 すぐに返信が入り、駅前にあるみどりの窓口に集合となった。
「藍を狙う阿呆共の顔も拝めて排除リストが出来るってもんだ」
「それなら、私も手を貸します」
「カナちゃんも手を貸してくれそうだし、精が出そうだね」
 フフフッハハハッと黒い笑みを浮かべて笑い合う氷麗とリクオは、清十字怪奇探偵団のメンバーが集結するまで続いた。

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