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気になる [ 35/259 ]


 桜同伴で学校に通うようになり、最初は物珍しさに人だかりが出来たが、今では当たり前の風景になりつつあった。
 男子は体育、女子は家庭科と1・2組合同授業で、清十字怪奇探偵団のメンバーが自然と集まり班を作るのはいつもの事。
 ワイワイ良いながらお菓子作りに勤しんでいるわけだが、どうも話の内容がおかしな方向に行っている気がするのは気のせいではないだろう。
「藍ちゃんが、ママっていうのは分かるけどさー。何で奴良が、パパなわけ?」
「あー、私も思った。付き合ってるの?」
 巻の疑問に鳥居が乗っかる形で興味津々といった風に私を見つめてくる。付き合ってる発言に、カナの視線が鋭くなり冷や汗を掻いた。
「付き合ってませんよ。リクオ君は、私をそういう対象で見てないと思います」
 セクハラは酷いが、現に物扱いされ公言までされている。原作が進むに連れて三大ヒロインの誰かとくっ付くのだろうが、一番の有力候補はカナだと思っている。
 一番近い場所にいるのは氷麗なのだろうが、それはあくまで下僕としてだ。女としての立ち位置は、カナの方が氷麗に比べて有利だろう。
「藍ちゃん自身は、リクオ君のことどう思ってるの?」
 ジーッとカナから熱い視線を送られ、私は乾いた笑みを浮かべながらどうやって誤魔化そうかと考えた。
 下手な言い訳をすると拗れるだろうし、かと言って本音を言えば目の仇にされそうだ。
「そうですね。強いて言うなら恩人とでしょうか。それに、リクオ君を通じてカナさん達と出会えましたから感謝してます」
「……恋愛感情とかないの?」
 粘るなぁ。ジットリとした目で見なくても取らないから。そう思うものの、口に出すわけにはいかず適当に言葉を濁す。
「ないですね」
 リクオだけに限らず、極力そういう感情は考えないようにしている。いつ元の世界に戻るか分からないし、それ以前に世界が私を消してしまう可能性もある。恋愛感情を抱いたら、辛くなるのは自分なのだ。
「そ、か……」
 ホッとしたカナの表情に、私は胸がチクンと痛むのをやり過ごす。
「藍は、好きな人おらんの?」
「居ないですね」
 カチャカチャとホイップクリームを泡立てながら、固さを確かめる。欲しそうに眺める桜に、指についたホイップクリームを口元にもっていってやるとパクンと指を食んだ。
「美味しい?」
「おいちー」
 フニャと笑みを浮かべる桜に私は釣られて笑みを浮かべる。それを見ていた鳥居が、ハァと溜息を吐く。巻が、眉を寄せ唸るように言った。
「藍ちゃん主婦ってるよ! 桜ちゃんは可愛いけどさー。もうちょっと、男に目を向けないとやばくない?」
「男に興味ありません……って公言してるようなもんじゃん」
 随分飛躍してるのは気のせいじゃないはず。どこから突っ込めば良いのやら悩むところだ。
「せめて、気になる人くらい作った方がええんちゃう?」
「私は、今のままで良い。寧ろ作ったら泣く」
 カナ以外は、男に興味を持てと云い。カナだけは、私に男が出来るのは物凄く嫌らしい。
「何でよ! このまま行ったら恋人はおろか結婚すら出来ないよ!?」
「藍ちゃん、桜ちゃんが大人になるまでは〜……とか言ってそう」
「将来、干物女に成り下がるで」
「……それは嫌」
 私を他所に言いたい放題の彼らに、私も我慢の限界だ。
「私が異性に興味ないみたいな言い方しないで貰えませんか? 私だって気になる人はいます」
「ええぇえ!?」
 それこまで驚くことなのだろうか? キラキラと目が輝いている面々に、顔がヒクリと引きつった。若干一名、物凄くオドロオドロしい気を纏っているけども気にしたら終わりだ。
「誰? イケメン?」
「私らが知ってる人?」
 矢継ぎ早に飛ぶ質問に、私はドウドウと宥める。言わなきゃ暫く付き纏われるのは目に見えているので、仕方なく気になる人の特徴を言った。
「皆さんが知っているかどうかは分かりませんが、世間一般では美丈夫の部類だと思います。無駄に色気があって、子供っぽいかと思えば達観しているところもあって掴みところのない方です。私より年上です」
 ぬらりひょんの若作りには驚いた。好々爺の姿が幻だと知ったのはつい最近の話で、あれもぬらりひょんの畏れの一つなのかと疑問に思う。是非ともリクオと並んで鑑賞して見比べたいものだ。
「幾つなの?」
「ていうか、どこで知り合ったの!?」
「(見た目年齢は)三十代くらいだと思います。私が(次元を超えて)迷子になった先(リクオの家)で知り合いました」
 鳥居の目がハートマークになっている。イケメン好きなのか。
「会ったりしてるの?」
「(常時、リクオの家で)会ってますよ」
「うわぁー、今度紹介してよ!! その人金持ち?」
「それは無理です。勘違いされてるみたいですけど、相手は妻子持ちですよ(孫も居るし)」
 私が、そこまで言うと哀愁漂う目でガックリと肩を落とす彼らに私は呆れた視線を送った。
「私は、恋愛とかあまり考えたくないんです。束縛されるのも嫌ですし、同じだけの気持ちを求められるのも苦手です。今は、皆とワイワイ騒いでる方が良いです」
「藍ちゃん……」
 カナがプルプルと身体を震わせたかと思うと、ギューッと抱きついてきた。
「藍ちゃんが行き遅れても私が貰ってあげるからね!」
 あんまり嬉しくないカナの言葉に、私は口から魂が抜けてしまった。それもスパーンッと。女の子からプロポーズされちゃったよ、この年で。
「あんたが、藍を嫁に貰ってどうすんねん!」
 ゆらの突っ込みにカナの斜め上に進む思考回路には無意味だった。
「働いて帰ってきたら、藍ちゃんが可愛い笑顔で出迎えてくれて美味しい手料理を堪能できる。考えただけでも幸せじゃない。その辺の男よりも稼ぐ自信はあるし、藍ちゃんと桜ちゃんを養うくらい出来るわ! 私、家事とか全然ダメだから藍ちゃんが居てくれれば全部任せてガッツリ外で仕事が出来ると思うのよね」
「……まあ、確かに藍がおると安心して家のこと任せられるけど」
「稼ぎが少なくても上手にやりくりしてくれそうだし」
「甘えたり我侭言ったりしても全部許してくれそう」
 カナの言葉にうんうんと頷く面々の出した結論は、
「藍ちゃんは、やっぱりお嫁さんが一番似合うと思うの! 藍ちゃんなら女でも眼を瞑るわ」
「そこに落ち着かないでー!」
全然オッケーと道を踏み外しそうな言葉を宣うカナに回りも同意しないで欲しい。今、この場にリクオが居なくて良かったと安堵したのは誰にも内緒である。

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