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少年、父になる。 [ 32/259 ]


「……何だコイツは」
 桜を凝視するリクオの顔が、物凄く怖い。うん、多分私に怒ってるんだろうけど桜に対しガンを飛ばすのは止めて欲しい。
「瑞鳥の桜ちゃんです」
 取敢えず桜の自己紹介をしたら、リクオの肩がプルプルと震え出す。
「また、お前は誑しこんだのかーっ!!」
「人聞きの悪いことを仰らないで下さい! 桜の教育に影響するじゃありませんか」
 眠い目をゴシゴシと擦る桜の手を止めながら、リクオの失礼な言葉に対して突っ込みを入れる。
「教育ってなんだ?! まさか、本家に置くつもりじゃ……」
「ママぁ……だれ?」
 リクオをジッと見つめていた桜が、コテンと首を傾げる。私は、良いことを思いついた。
「桜のパパですよ〜」
「パパ、だっこ」
 リクオに手を伸ばし抱っこを強請る桜に、リクオはビシッと固まってしまう。
「ほら、パパ抱っこしてあげて下さい」
 桜を抱きかかえリクオに渡すと、桜は視界が高くなったことでキャッキャッと笑っている。
「……俺と藍の子」
「いや、そこは違いますけど」
「何か良い……」
「ハァ……」
 一人どこか別の世界に旅立った彼に声を掛けるも戻ってくる気配は無い。いきなりパパは衝撃すぎたかとちょっと反省する。
「桜、歯磨きしておねんねしようね」
「あい!」
 今だ違う世界に旅立ったリクオから桜を取り戻し、奴良邸へと入る。
「お前、また変なの連れ帰ってきたのか」
「へんじゃないもん。しゃくらだもん」
 廊下を歩いていた納豆小僧の言葉に、桜がプクゥと小さな頬を膨らませて文句を言う。
「リクオ様に怒られるぞ」
「大丈夫ですよ。玄関先で異世界へ旅立たれましたから。納豆小僧さん、ぬらりひょん様に明日桜を連れて行くと伝えて頂けますか?」
「今日じゃダメなのか?」
「もう夜遅いですし、桜も眠たそうにしてますから」
 ウトウトし始めている桜の頭を撫で、納豆小僧に言伝を頼むと彼は仕方が無いと頷いた。
 桜を洗面所に連れて行き、予備の歯ブラシに歯磨き粉をつけて歯を磨く。
 歯磨き粉の味が不味かったのか、桜はビックリしたように目を見開きギャンギャンと泣き出した。
「桜頑張って。これしないと、虫歯になって痛い思いするんだよ」
「ふぇぇん…うぅーっ…」
 ボロボロと涙を零しながら、歯磨きをする桜に私は子供用の歯磨き粉を買うことを決意したのだった。


 朝、修羅場が待ってました。私が桜を連れ帰ったことは、瞬く間に本家中に知れ渡り氷麗の怒声で目を覚ますという嫌な体験をする羽目になった。
 スパーンッと襖が開いたかと思うと、氷麗が目に涙を溜め私を揺さぶりながらワンワンと泣いた。
「私が居ながら、リクオ様と浮気して子供をこさえるなんて……呪ってやるぅううう!」
「氷麗ちゃん、落ち着いて下さい! 嗚呼、物騒なこと言いながら雪を降らせないでぇえ!!」
 桜を庇いながら氷麗を宥めるが、それすら勘に触るのか私の部屋は雪で埋もれてしまう。
「ひぃぃーっ!! さ、寒い…」
「藍を殺して私も死ぬ!」
「いやいや、そんな事しちゃダメです。そもそもリクオ様と子供が出来るわけありませんから! 私、まだ十三歳ですよっ!! 初潮も来たばかりなのに、桜は一体いつの子になるんですかー!」
 そこまで叫んで、漸く氷麗の動きが止まる。桜が三歳だと改定して、私が十歳の時に生んだ子になる。有り得ないだろう。
「それにですよ。桜をよ〜く見て下さい。彼女の髪色は、桃色です。私は黒で、リクオ様は茶色です。遺伝子的に桃色要素はありません。私が生んだわけでも、リクオ様の血が流れているわけでもないのは明白ですね」
「……じゃあ、これは誰の子?」
 睨むように桜を見つめる氷麗に、私はこれまでの経緯を話した。
「――と云うわけなんです。リクオ様に許可を頂かないことには住めないので、桜にちょっと頑張ってもらいました」
「そうだったのね。リクオ様が、桜は僕の子だからって触れ回ってたから……」
 シュンッと落ち込む氷麗に、私はよしよしと彼女の頭を軽く撫でる。誤解をさせるようなことを触れ回ったリクオが悪いのだ。後で、報復せねば。
「桜、氷麗お姉ちゃんにご挨拶しなさい」
 私の背中に隠れていた桜が、恐る恐る顔を覗かせる。ギューッと浴衣を掴みプルプルと怯える桜に、まあ怖くないからと彼女を抱き上げ氷麗の前に出した。
「……しゃくらです」
「私は氷麗よ。怖い思いさせてごめんね」
 微笑みながら桜の頭を軽く撫でると、彼女も緊張を解いたのかされるがままになっている。
「着替えをしようにも部屋がこれでは無理ですね……」
「ごめんなさい。直ぐに片付けます」
 雪に埋もれた部屋を氷麗に任せ、私は桜を連れて若菜のところへと向かったのだった。
 若菜がお赤飯を炊いて喜んでいるなど知るよしもなく、本家にいる住人達の誤解を解くのに丸一日掛かったのは言うまでもない。

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