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妖怪専門見習い医女 [ 29/259 ]


 リクオの裏切りにあい、鴆一派次期頭領候補として修行中の藍です。
 薬学・医学は無知に等しい私を教育してくれる天台をはじめ鴆一派の皆には、頭が下がる思いでいっぱいだ。
 講義と実践を繰り返し、患者が多く訪れる薬鴆堂での私の仕事は簡単な応急処置をする事。
 軽い傷なら、天台と一緒に処置を施す。薬の選び方から包帯の巻き方と奥が深い。
「はい、終りましたよ」
「おお! 痛みが引いた。藍様ありがとう」
「どう致しまして。お大事に」
 お礼を言って返る患者達に手を振りながら、次の患者へと移る。
 それを何度も繰り返していると、時間が経つのは早くもう正午になっていた。
「藍、そろそろ終いにして帰る準備をしろ」
「はい、鴆様」
 請け負っていた患者を天台に任せると、私は帰る仕度を始める。リクオが迎えに来たのだろう。
「天台さん、ご指導ありがとう御座いました。明日も宜しくお願いします」
 返事が返ってこないのは慣れっこで、軽く挨拶し終えた私はリクオの待つ部屋に向かう。
 渡殿でゆったり酒を嗜む姿に眉が寄る。未成年だからお酒は控えて欲しいのに、一向に彼は聞いてくれない。
「リクオ様、お待たせ致しました」
「お疲れさん。じゃあな、鴆」
「鴆様、また明日」
「おう、気をつけてな」
 鴆に一礼した後、彼が用意した屋形船に乗り込み奴良邸へと戻る。
 フワァと小さな欠伸を噛み殺していると、リクオが腕を掴み抱き寄せてきた。
「眠てぇなら寝て良いんだぜ」
 学校との両立は流石にキツクて、朝ご飯の支度は免除して貰っているが眠いものは眠い。
「でも……」
「大丈夫だ。寝ても俺が部屋まで連れてってやる」
 ポンポンと頭を軽く撫でられ、それが心地良くてまた欠伸が出てしまう。
 少し高めの体温が心地良くてスリッと擦り寄り居心地の良い場所を探すかのように彼の腕の中でゴソゴソと動いた。
「済みません。リクオ様…お休みな…さ…い」
 簡単な挨拶だけ済ませると、限界とばかりに私は意識を手放した。


「キャアアアアッ!!」
 目を覚ますと、そこには昼のリクオが隣に寝ていました。劈くような悲鳴を上げ奴良邸を震撼させた私は、我が物顔で隣に寝ていたリクオを文字通り叩き起こした。
「人の部屋で寝てるんですかっ!!」
「んんっ……藍うるさい」
 眠そうに目を擦りながら拗ねたような顔で文句を言うのは反則だ。可愛くて怒りが挫けてしまいそうだ。
「何で私の隣に若様が寝てるんですか!」
「だって、ここ僕の部屋だし」
 そう云われて、私は部屋の中を見渡すと確かにリクオの部屋だ。
「部屋まで連れてってくれるって言ったのに……」
「連れて寝かしてあげたっただろう。僕は、一言も藍の部屋に連れて行くとは言ってないけど」
 ニヤッと悪戯が成功した時の様な悪どい笑みを浮かべるリクオに、私はやられたと思った。
「だ、だからってリクオ様の部屋で寝かせることないでしょうっ!!」
 寝乱れたせいか浴衣が少し乱れている。ただでさえ、寝起きの変な顔なんて見られたくないのに最悪だ。
「んー……だって、藍が僕の着流しを掴んで離さなかったんだもん。仕方が無いでしょう」
 キュッと腰に腕を回され抱きすくめられる。首に掛かる息がくすぐったい。
「離して下さい! 仕度します」
「嫌かなぁ」
 ふらちな手が、胸を弄っている。これは、本格的にヤバイ。
「いい加減にっ……」
 殴ってやろうと思っていたら、スパンッと音を立てて襖が開いた。
「藍! 純潔は無事ですかぁああ!!」
 息を切らせて飛び込んできた氷麗に、私の体温は一気に上昇する。リクオに胸を弄られている状態をバッチリ見られてるのだ恥ずかしくないわけがない。
「リクオ様ぁあああ! 何してるんですかっ!!」
 ベリッとリクオから私を引き剥がすと、ムギューッと抱きしめられた。
「嗚呼、私の藍が汚される。胸以外に触られたところはありませんか? ハッ! 消毒しなくてはっ」
「そう言いながら人の胸を揉むのは止めてぇええ。海ーっ、助けてぇえ!」
 私は、藁にも縋る思いで海女に助けを求めた。彼女が駆けつけた後、彼女の顔が心底怖いと思ったのは初めてだ。
 彼女の畏れが奴良邸を包み込み、私以外の者が気絶するという被害を出した朝だった。

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