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少女と陰陽師 [ 9/259 ]


 私が転入したクラスは、一言で表すなら『変』である。人の話を聞かない天然パーマの少年を中心に、彼を崇め奉る信奉者の数に唖然。
 微妙な時期の転校生とあって注目されるのは予測は出来ていたが、私がリクオと一緒に登校してきた姿をバッチリ目撃していたらしく、しつこく関係を聞かれうっかり遠縁だと説明したら勝手に清十字怪奇探偵団の一員にされてしまった。
 断りを入れる間を与えないってどれだけワンマンなんだ。不機嫌になっても仕方が無いと開き直り、ブスッとした顔で冷やかに清継とその腰巾着の島を睨みつけても許されるはず。
 でも、彼のお陰でクラスで浮くことはなくすんなりと溶け込めたのは嬉しい誤算だ。
 昼休みに彼が、
「清十字怪奇探偵団の皆にも君のことを紹介しなければ! そうと決まれば、早速徴集だ。島君、佐久穂さん行くぞ」
と高笑いをしながら島をお供に私の手を掴み隣のクラスへと引き摺っていこうとするのには驚いた。
「あの、ちょっと……」
 振り解いても良いのだが、いかせんリクオの友人と思うと強い態度には出れない。
 それ以前に人の話を聞こうとしないのだから、何を言っても無駄かもしれない。
「おお、花開院さんに家長さんとおまけに奴良君。丁度いいところに!!」
 名指しで呼ばれた彼らは、カナとリクオは一瞬嫌な顔をし、花開院と呼ばれた少女は興味津々にこちらを見ている。
「どないしはったん?」
 コテンと首を傾げる彼女に、喜色満面の笑みを浮かべて清継が私を紹介した。
「新しく入った神月藍さんだ。奴良君は知っているだろうが、花開院さんと家長さんは知らないだろうからね! 紹介するよ」
 グイッと手を引っ張られ前に押し出された私は、営業スマイルを顔に貼り付け当たり障りのない挨拶をした。
「えっと、花開院さんですね?(知ってるけど)初めまして、神月藍です」
「うちは、花開院ゆら。ゆらでええよ。佐久穂さんって、妖怪好きなん?」
 リクオの前でその質問は止めて欲しい。下手なことを言って彼を傷つけるのは得策ではないし、怖いのは好きじゃない。
「そうですね……。害のある妖怪は好きになれません」
 言葉を濁したつもりだったが、ゆらの興味をしっかり引いてしまった。
「妖怪にあったことがあるような口ぶりやね」
「なにぃい!? それは、本当かい神月さん! いつどこで会ったんだい?」
 ガシッと肩を掴まれ顔を近づけてくる清継に、私は顔が盛大に引きつった。
 彼の後ろに居たリクオの顔が、笑みを浮かべてるのに般若を背負っているから恐ろしい。
「顔近いです。放して」
 ググッと手で彼の肩を押し退けようとするも、力では全く適わない。
「僕の質問に答えてくれるまで放さないぞ」
 そんなこと、高らかに宣言されても困る。
「……以前、迷子になった私を助けてくれたんです」
 嘘は言ってない。半分脅しが入っていたが、路頭に迷う事無く屋根の下で食事も出してもらえる好待遇はなかなかないだろう。
「それはどんな妖怪やった?」
「うーん……言葉で表せないくらい変わった姿をしてましたね。上手く説明できなくてごめんなさい」
 適当に言葉を濁し話を打ち切ると、清継は私の肩を掴んだまま一人で興奮しているし、ゆらは顎に手を当て唸っている。
「そろそろ手を離して欲しいんですけど……」
 後に控えてる若様が、それはもう恐ろしい顔でこっちを睨んでいるので。とは言わなかったが、本気で手を離して貰えないとヤバイんじゃないだろうか。
「ああ、悪かったね。僕も、昔に妖怪の主に助けられたんだ! それ以来、彼の魅力に嵌ってね。是非とももう一度会いたい!!」
 現に毎日会っていますよと、心の中で呟きつつ「へーそうですか」と適当に相槌を打った。
「力のある妖怪が人助けするなんてありえへん! それほんまに妖怪か?」
 頭ごなしに否定されるのは、かなり腹が立つ。
「ゆらさんの言う妖怪は悪いものばかりなの?」
「せや、妖怪は悪! 人を騙し襲い奪い食らう……人から恐れられる存在や。だから、陰陽師が存在すんねんで」
 刷り込み現象とは恐ろしい。妖怪を絶対悪と云うのなら、陰陽師は正義の味方と云いたいのか。
「ゆらさんの持論で言うなら、神に近い天狐も悪ってことよね? 座敷童子や幸運をもたらす付喪神だって悪なんでしょうか」
「それは……」
「物の見方って一つじゃありませんよ。確かにゆらさんが言うような妖怪はいたら怖い。でも、私を助けてくれた妖怪は少なくとも優しかった。人にも色んな人がいるように、妖怪にも色んな妖怪がいると思います。だからね、相手を知ってからでも対処するのは遅くないんじゃないかな?」
「そんな甘い考えやったら即仏さん行きやで」
 小さい頃からの英才教育の前には、私の言葉など説得力ゼロのようだ。まあ、こればかりは実際に体感して貰わないと分からないだろう。
「ゆらさんにも分かる時が来ますよ」
 彼女にしてみれば意味深な言葉かもしれないが、私はそれ以上何も言う気になれず口を閉ざしたのだった。

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