小説 | ナノ

少女と若様と幼馴染 [ 8/259 ]


 奴良組でお世話になるようになって早一週間。家事全般が私の仕事だが、流石に学校へ通わないのはダメだろうと若菜さんの一言で学校に通うのが決定しました。
 戸籍もないのにどうやって学校に通うんだろうと思っていたら、ぬらりひょんの能力を生かして市役所に入り込みパソコンを弄って戸籍を作ってくれました。
 パソコンを使いこなせるなんて、ハイテクじいちゃんだと感心した。制服ができるまでは、氷麗の予備の制服を借りる事となった。
 いつもは見送りする側だったのに、何でリクオに手を引かれて学校へ行く羽目になっているのか謎だ。
「若様、手を放して欲しいんですけど」
「若様呼び禁止! 敬語も必要ないって言ってるだろう」
「それは、無理です。若様は、私にとって雇主の息子ですからね」
 キッパリ言い切ると、リクオは憮然とした顔で藍を見る。
 『超不満です』と顔に書かれているのが、ありありと見て取れる。
 ここで折れたら、事ある毎に押し切られてしまう。私は、話を変えようと試みる。
「それより、何で手を繋いでるんですか? 手を放して欲しいんですけど」
「藍は、学校までの道のり分からないでしょう? 途中で迷子になったら困る」
「……迷子防止ですか」
「そういうこと」
 迷子になるほど小さな子供ではないのに、このお坊ちゃまは自分の意思をガンッとして曲げようとしない。
 漫画で見たときは、若干腹黒い(天然)ものの根は素直でお人よしで良い人を体言していたように記憶していたが、目の前の彼は人の話を聞き入れる様子はない。
「でも、手を繋いで仲良く登校してたらあらぬ噂が立ちます」
 当たり障りのない言葉で手を解こうとすると、ギュッと痛いくらい掴まれて困った。
「僕は、藍と噂になっても全然困らないから。藍は、僕と噂になるのが嫌?」
 眉を下げて聞いてくるリクオに、私はウッと言葉を詰まらせる。
 その仕草が何とも可愛くて思わず抱きしめたくなるのをギュッと我慢しつつ、私はコホンッとわざとらしく咳払いした。
「嫌ではありませんが、若様だって好きな人に勘違いされたりとかしたら悲しいでしょう?」
「僕は、藍となら……」
「リクオ君おはよう」
 リクオが何か言おうとしたのを遮るように、背後から女の子の声が掛かった。
「カナちゃん、おはよう」
 カナの存在に気付いたリクオは、人の良い笑顔を浮かべて挨拶している。その間も私の手は握られたままだ。
 カナが私とリクオの手が繋がっているのに気付き、ムッとした顔になる。
「彼女だれ?」
 低い声で私の存在を聞いてくるカナに、私は乾いた笑みが零れた。完璧に誤解されている。
「神月藍と申します。リクオ…君とは、遠縁にあたり分け合って彼のお家に居候させて貰っているんです」
「ふぅ〜ん……」
 まだ納得いかないのか、握っている手を凝視している目は嫉妬に狂う女さながらだ。さりげなくリクオから手を離し、私はカナに握手を求めた。
「最近、こっちに越したばかりなのでよろしくお願いしますね。それと、彼は私が酷い迷子癖を心配して手を繋いでくれてただけだから心配しなくて良いですよ」
「そ、そんなんじゃないよっ。私は家長可奈。よろしくね」
 頬を赤く染めて弁明する彼女が何とも可愛らしい。
 カナの誤解が解けてホッと息を吐く私は、リクオが物凄く不機嫌な顔で睨んでいたことを知るよしもなかった。

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